高層オフィスビル街は“ゴーストタウン”に
その理由については、さまざまなことが言われている。だが、先の「州法修正案47」が、こうした行為を助長していることは明らかだろう。
それに加えて、サンフランシスコの警察不足という問題も関係している。土地柄、不動産価格が高く警察官が住める場所ではないためか、サンフランシスコでは2010年頃から警察官の数が減少しており、問題となっていた。
重犯罪への対応や、観光地や学校行事などに警察官を配備することも多いため、常態化した窃盗に時間を避ける警察官がほとんどいないのだ。
もちろん、これだけ窃盗が常態化してしまうと、商業は成り立たなくなってしまう。コロナ禍に入ってから、サンフランシスコ市内の中心地では驚くほど多くの店舗が廃業したり、無期限の休業を実施したりしている。
「GAP」「バナナ・リパブリック」などのファッション系ショップをはじめ、「AT&T」が運営する携帯電話ショップ、スーパーマーケット「ホール・フーズ・マーケット」など、閉店を発表した企業の数はすでに25社以上にのぼる。米国最大の薬局チェーン「ウォルグリーンズ」にいたっては、市内の5店舗を一斉に閉店した。
閉じたまま営業を再開しない飲食店なども多いが、実はこれにはもう1つ理由がある。今のサンフランシスコは、観光地にはそれなりに人がいるが、オフィス街などには平日の日中でもほとんど人がいないのだ。
サンフランシスコでは、テクノロジー関連以外の企業でも、社内のIT化が進んでいることが多い。そのためパンデミックが落ち着いたあとも、多くの企業が自宅からのリモート勤務を継続しており、おしゃれな高層オフィスビルが立ち並ぶエリア(東京で言うと、大手町のような場所)が、ほぼゴーストタウンのような状態なのだ。
それゆえに、かつてはランチで賑わっていたであろうビル周辺の飲食店も、「CLOSED」のプレートを出して鎖をかけたままになっていることが多い。
市内で人を見かける場所と言えば、先に触れたユニオンスクエアや湾岸沿い、公園、美術館などの観光スポットと、多くのホームレスが住むテンダーロイン地区(Twitter本社のすぐ近く)くらいという極端な状況になっている。
もっとも2022年春頃までに比べると、これでも状況はかなりよくなったそうだ。
不動産価格の高騰とインフレによる物価の高騰、そこにコロナ禍が重なり、2019年からの3年間でベイエリアではホームレス人口が35%も増加したという(サンフランシスコ市調べ)。
このため2021年末から2022年の春頃までは、大幅に増えたホームレスが、元々ホームレスが多かったテンダーロイン地区だけに収まりきらず、ユニオンスクエアを含む観光の中心地にも溢れていたという。
筆者がバーニーズ・ニューヨーク跡地で見かけたホームレスも、その名残だったのだろう。2022年夏、観光が再び動き始めてきたのに合わせてサンフランシスコ市が観光スポットを中心に重点的に警察を配備し、ホームレスを追い出し始めた。その影響で観光エリアは徐々にかつての姿を取り戻し始めたが、それによってテンダーロイン地区の状況は一層ひどくなった。