名前も認識していない相手を撃った
「動くな!」
A容疑者はそう叫び、八代航佑3等陸曹(25)に対し、最初の銃撃を行った。実弾射撃訓練が始まった直後、A容疑者が本来は、射撃位置に着いてから行う弾倉の装填を、待機場所でしていたことに気付いた八代航佑3等陸曹(25)が制止しようとしたため発砲したのだ。
八代航佑3等陸曹(25)を銃撃後、A容疑者は右後方の弾薬置き場を振り返るとまっすぐ向かっていった。実弾の受け渡しを行う「弾薬係」の菊松安親1等陸曹(52)にむけて2発目を発砲し、続けて原悠介3曹(25)に3発目を発砲した。さらに4発目を発砲し、その弾は菊松安親1等陸曹(52)の胸を直撃した。逮捕当初A容疑者は「恨みはなかった」と供述していたという。
社会部記者が語る。
「A容疑者は特定の隊員に恨みや不満などがあったという趣旨の供述はしておらず、菊松さんと原さんについては『弾薬置き場にいた人』と名前も認識していないようです。犯行状況から実弾を奪おうとしたのではないかと見られています。またA容疑者は逮捕当初『止められそうになったから撃った。足を撃つつもりだった』と殺意について否認するなど調べにも応じていましたが、弁護士と接見したのち、まともに調べに応じなくなっているようです」
6月19日には陸上自衛隊の警務隊員およそ10人が岐阜県内のA容疑者の実家に家宅捜索に入り、事件に繋がる可能性のある物を押収した。動機を含めいまだ多くが謎に包まれているこの事件だが、知人や同級生をはじめA容疑者は「カッとなりやすい」という証言が複数出ている。
「トラックの運転手である父と、アルバイトをしていた母の元で育ったA容疑者ですが家があまりにも散らかっていたことから近所から不満の声があがっていた。6人きょうだいの真ん中がA容疑者で、他のきょうだいと一緒に幼少期には何度か児童養護施設に入っていた時期があったようです。また、小学校の途中から一度は実家に戻ったもの、高校時代の大半も里親の元に預けられていました。家庭環境の影響からか小中学生の頃は大人に対し反抗的な態度を繰り返していたが、自衛隊に入隊する直前は再び実家で暮らしていた」(社会部記者)
A容疑者が高校時代を過ごした里親の元を訪ねると、年配の男性がドアを開け記者を招き入れてくれた。しかし、男性にA容疑者の名を告げると顔色がさっと変わり、「せっかく来てもらって悪いが守秘義務があるので答えられない」と繰り返した。