#1〈メジャー通算100勝〉「原点は平均台の上でのテニスラケット振り」“練習嫌いで体が大きいだけだった”ダルビッシュが世界屈指の投手になれた理由
マウンドから打者の長所と短所を瞬時に把握
――研究熱心で知られるダルビッシュ投手ですが、今春のWBCではライバル国のメジャーリーガーについて、ダルビッシュ選手自身が対戦して蓄積した生データを惜しげもなく侍ジャパンに提供したことも話題となりました。
山田(以下同) 自分の持っている虎の子の生データを惜しみなくチームに提供したことを驚く声がありますが、ダルビッシュはもともとそういう子なんです。「羽曳野ボーイズ」で野球をやっている頃から、だれにでも投球のコツや変化球の握りなどをオープンに教えてしまう。いつだったか、対戦チームのライバル投手にも何の屈託もなく、いろいろと教えていたので周囲がびっくりしていたことがありました(笑)。
とにかく、昔からフラットでオープン。「みんなで教え合って、最後にみんなができるようになるのが一番ええやん」というのが、当時からのあの子の流儀だったんです。ただ、フラットでオープンというだけでは足りません。
――どういうことでしょう?
提供する生データが相手選手をきっちりと攻略できるだけの精度とレベルに達していないとダメでしょう。その点、あの子のデータは間違いない。わたしはこれまで「羽曳野ボーイズ」で750名ほどの子どもを指導してきましたが、ダルビッシュほど洞察力と記憶力に優れた選手を知りません。
あの子は打者がバットをかまえるのをパッと見るだけで、相手の長所、短所を瞬時に把握してしまうんです。また、バッターの名前や顔に記憶がなくても、一度対戦したことのある相手なら、どこが弱点でどのコースにどんな球を投げたら打ちとれたとか、過去の記憶を瞬時に思い浮かべることができる。
一度、イニングが終わってベンチに戻ってきたダルビッシュに、「さっきの打者のこと、知ってるんか?」と聞いてみたことがあるんです。すると、あの子は当たり前のような表情で「名前も顔も覚えていないけど、パッとバットをかまえた瞬間、以前に対戦したことがあって、どこにどんな球種を投げて打ち取ったのか、あるいは打たれたのかという記憶が浮かんでくる」と答えたんです。これには本当にびっくりしました。
こうした洞察力や記憶力は教えようとしても教えられるものではない。こうした投手として一番大事な能力、資質を、彼は生まれながらにして持っていたんです。36歳のダルビッシュに対して、パドレスが6年・約141億円という異例の大型契約を用意したのは、単に投げるという能力だけでなく、チーム作りへの献身や対戦データの処理能力の優秀さなどが高く評価されたのだと思います。