応援に背中を押され4月に研究所を発足
――今年の4月には一般社団法人AIM医学研究所 (英名 The Institute for AIM Medicine/略称IAM“アイアム”)を発足。代表理事・所長としてIAMに専任し、AIM研究を続けるとのことですが、東大を離れたのはどうしてだったのでしょう?
一刻も早くネコ薬を完成させるためです。大学は、薬を作る前の基礎研究をするにはとてもいい場所です。自由に研究ができますからね。でもそれはあくまで学術の世界の話。私たちの研究のように、基礎研究を経ていよいよ薬にしようとなると、製薬企業やそれを販売する企業など、一般の方々とタッグを組んで密に接しなければならなくなります。複雑化してくるフェーズになると、大学にいるだけでは実現が難しくなってくるんです。
私が6年間在籍していたアメリカの大学は、基礎研究だけでなく薬を世に出すことまでも、ものすごく真剣に考えていました。例えば特許のプロや投資家を引っ張ってくるプロなどが大学に在籍している。つまり大学の中で世に出すところまでできてしまう体制が整っていました。日本はまだそのシステムが不完全ですが、だからと言って「できません」では済まない。それができる環境を自分で作るしかないと考えたんです。
――大きな組織を離れることは、勇気がいることでは?
怖かったですね。でもそれができたのは、やはり私の研究を知ってくれた一般の方々の応援に他ならないんです。ネコのオーナーさんたちの切実な声や寄付金によって、ネコ薬を1日も早く完成させなければいけないという責任感が強く芽生えました。それがなければ踏み出せませんでしたし、背中を押していただいたことは間違いないです。
記事がバズったことで停滞していた創薬が前進
――ネコ薬の開発は、新型コロナウイルスの影響で2020年6月にスポンサーが撤退。中断を余儀なくされたそうですが、進捗は?
中断した後も、一緒に作ってくれるところがないか個人的に動いていたのですが、どうしても製薬企業さんの腰が上がらなかったんです。ところが2021年7月に記事がバズったことで、何社かに手を上げていただきまして。世論によって大きく前進することになりました。
創薬の過程で一番大変な作業は、治験薬をどのように作るかということ。タンパク質は化学合成できないので、どうしても生き物である細胞に作らせなければならない。何千リッターの培養液からわずかしか取れませんし、それを体に注射してもいいくらい綺麗にして、純度が高いものに仕上げていくのは物凄くコストがかかるんです。現在はその条件をほぼ決めかけている時期。あとは大量生産をして、治験をして、データをまとめて農水省に審査をしてもらうという段階を踏むことになります。
――治験はどのくらいかかりますか?
長くても1年でしょうね。ただ、ネコの場合は生まれてから15〜16年かけてだんだん腎臓が悪くなっていくので、どの段階で治験をやればいいのか、そこも問題です。生まれてすぐのネコに投与しても、結果がわかるまでに長い時間がかかってしまいますからね。どこでAIMを投与すると短い期間で大きな違いがわかるか。実はそこもすでに見つかっているので、治験に向けての準備はほぼ完成している段階です。