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ブランドはなくても即戦力になれる大学

京都市営地下鉄東西線・太秦天神川駅から徒歩約3分の好立地に近代的なキャンパスを構える京都先端科学大学(京都市右原区)。

2021年6月、真新しい工学部校舎では新入生約100人が3教室に分かれてデザイン基礎の授業を受けていた。外国籍の教員が英語で講義し、時折、日本人助手が日本語で解説する。スタッフの一人は「入学直後なので日本人助手の解説が入るが、集中的に英語の指導をしているのでいずれ日本語解説はなくなる」と説明してくれた。

京都先端科学大を運営する永守学園は、一代で世界一の総合的なモーターメーカーを築いた永守重信•日本電産会長が理事長を務める。18年に旧京都学園の理事長に就任した永守氏は、19年に法人名を京都学園から永守学園に、大学名を京都学園大から京都先端科学大に変更、私財100億円以上を投じて大胆な大学づくりに乗り出した。22年現在で大学(5学部)・大学院(5研究科)、付属中学・付属高校、保育園・幼稚園を擁する総合学園に発展している。

“永守カラー”の象徴が20年設置の工学部機械電気システム工学科だ。1学年の定員は200人。入学後すぐにロボット、マイコン応用システム、ウェブアプリの製作に取り組ませ、モノづくりの面白さを体験させる実践重視の工学教育を行う。学習には電子教材を積極的に活用、「世界で使える英語」を徹底指導する。卒業研究の代わりに企業の課題解決に取り組む「キャップストーンプロジェクト」を導人、卒業後すぐに実践の場で活躍できるプロフェッショナルを育成するというのがうたい文句だ。

「変革」を拒み続ける日本の教育機関…前例踏襲、参入者への妨害を続ける教育ムラのルール_1
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日本電産・永守重信がブチぎれた
日本の文科省審議会

永守氏が大学改革に乗り出したのは既存の学校に対する強い不信感がある。日本電産を創業した当時は難関ブランド大学卒の学生を採用できるはずもなく、入社するのはノーブランド大学の卒業生ばかりだった。

その後、会社が急成長し社会の評価も高まるとブランド大卒の学生も入社するようになった。だが、いざ彼らを採用してみるとブランド大卒とノーブランド大卒で仕事ぶりになんの違いもない。「大学は社会が求める学生を世に出していかなければならないのに、学生も家庭も学校も企業もブランド志向が非常に強く、即戦力になる人材が育っていない。これでは世界で戦えない。ならば自分で学校をつくろう」

だが、大物経済人といえども教育界参人の道は平たんではなかった。工学部の開設では文部科学省の審議会から「定員200人は多すぎるとか、重箱の隅をつくような細かい注文がついた」。モーターの重要性も分からない人が設置認可の審議会で的外れの指摘をしてきた。認可は当初の想定より2カ月遅れ、「募集活動に入れず、初年度の学生募集で大打撃を受けた。一時は全国紙に抗議の広告を出そうかと真剣に考えた」という。

「企業は許認可が少ないから、自分でどんどん改革しないといけないが、学校は文科省が許認可の権限を持っていてフレキシブルでない。改革には限度もあり四苦八苦している。以前は医学部も持ちたいと考えていたが諦めた」と語る。一方で「それでも最近は文科省内に理解者が増えている」とも話す。