3年半を費やした『NIA』というアルバム

アニメ作品への参加という新たな挑戦と並行して、自身名義でのアルバムの制作も続けられていた。当初は、強いメロディとエレクトロで精密なアレンジを特徴とする『AINOU』との相似形や続編のようなイメージを意識していたというが、時代の急激な変化に合わせ、その有り様は変わっていかざるを得なかった。

中村 前作の『AINOU』という作品が2018年にリリースされた後に、すぐ(制作に)取り掛かっていました。元々『AINOU』という作品は2作になりそうだなというのは2016年の段階で構想していました。引き続き自分の持ち合わせている実演奏スキルと電子音のサウンドを掛け合わせた異色もの、というところまでは決めていたのですが、コロナ禍ということもあり、自分が何を求めているのかが日々変化しているように感じて、活路を見つけるまでに時間がかかりました。

そうした制作上の変化を乗りこなす上で、彼女のサウンドプロダクトに貢献し、共同制作に名を連ねているメンバー、西田修大、荒木正比呂の存在は大きいと語る。ライブにもコアメンバーとして参加するふたりは、中村佳穂という強烈な個性を持て余すことなく、ときに歩幅を合わせたり、ときに一歩後に引いたりしながら、歌を引き立たせる職人だ。

中村 ふたりは今作、ミクスチャーのような存在でした。洋楽ライクなトラックの上に日本詞を乗せるとのっぺりしてグルーヴしないということが多々あるのですが、トラック時点で得られたバランスが崩れないように、私が提案したメロディをコラージュのように再編集し、跳ねるようなグルーヴを作っていただいたりしました。粘り強く作っていただけて本当に感謝しています!

『竜そば』への参加、紅白出場――チャレンジを止めないシンガーソングライター・中村佳穂が語る音楽家としての未来(前編)_3
現在も京都を拠点としている。「ミュージシャンの時間の感覚が豊かで、自分の心の軸にしたがって生きている感じがするのが居心地良く感じています」とその理由を語る

中村佳穂が考えるポップスの形

ふたりの協力をもって完成したアルバム『NIA』は、確かに『AINOU』の延長線にありながらも、そこからの飛躍的な伸びしろを感じさせる作品だ。先行シングル「アイミル」や「さよならクレール」をはじめ、中村の声を活かしたファンキーで躍動感溢れるポップスが縦横無尽に展開されていく。しかも、インディー的なLo-Fiサウンドではなく、Hi-Fiでクリアな録音がなされていることが、その普遍性に寄与している大きな要因だろう。そしてそれは、彼女の中での“ポップスとは?”という問いへの回答のようにも感じられた。

中村 (Hi-Fiなサウンドは)強く意識はしていませんでしたが“普遍的に聴こえる”というもののひとつの解が、今回のサウンドに行き着いたのだと思います。実際インディーズでもあるので、その自負から外れた自分の中の新しい側面にも辿り着いてみたいと思っていたので、そう言っていただけて嬉しいです。
ちなみに、私の中でポップスと聞かれてパッと思いつく言葉は、ジャンク、気軽さ、気楽さ、隠し味でした!

(後編に続く)

<ツアー紹介>
[中村佳穂 TOUR ✌ NIA・near ✌]
■2022/09/14(水) @東京・J:COMホール八王子 開場18:00/開演19:00
■2022/09/19(月・祝) @福岡国際会議場(メインホール) 開場17:00/開演18:00
■2022/09/22(木) @岡山・倉敷市芸文館 開場18:00/開演19:00
■2022/09/27(火) @トークネットホール仙台(仙台市民会館)大ホール 開場18:00/開演19:00
■2022/09/29(木) @札幌市教育文化会館 開場18:00/開演19:00
■2022/10/05(水) @愛知県芸術劇場 大ホール 開場18:00/開演19:00
■2022/10/07(金) @東京・昭和女子大学人見記念講堂 開場18:00/開演19:00
■2022/10/27(木) @大阪・フェスティバルホール 開場18:00/開演19:00

一般発売 : 2022/05/28(土)10:00~

取材・文/森樹