孤独から離れ、ぬくもりに触れる

宿泊予約の手紙が来ない日はほとんどなく、5月の大型連休期間も満室。久美子さんは毎日返信を書きながら、手紙の文字や文章からどんな人かを想像するのが楽しみなのだという。

今回、私の出した予約の手紙からどんな人物を想像していたかを尋ねてみた。

「今回は外れちゃった。落ち着いた文面で、『今どきこんなしっかりしたお手紙書くなんて』って思ってたから30代半ばぐらいの人かなと。こんなに若いと思わなかった」と久美子さん。

「文章を仕事にしている人だからな」と充さん。(筆者は29歳)

夫妻がどんな人物を想像していたかを尋ねて話が盛り上がるのも、ネット予約ではできない醍醐味だ。

【宿泊体験記】予約は手紙のみ、文明から離れた“不便な宿”が国内外にファンを持つ理由とは? 「孤独から離れに来るのかもしれない」_13
毎日、台所で手紙の返信を書く久美子さん

ピーク時には年間300組ほどを迎えていたが、コロナ禍を経て現在は半分ほどに減少。訪れる人は30歳前後と60歳前後、東京近郊からが最も多いという。決してアクセスがいいとは言えない場所だが、常連客は各地にいる。

【宿泊体験記】予約は手紙のみ、文明から離れた“不便な宿”が国内外にファンを持つ理由とは? 「孤独から離れに来るのかもしれない」_14
庭で山菜を摘む充さん
【宿泊体験記】予約は手紙のみ、文明から離れた“不便な宿”が国内外にファンを持つ理由とは? 「孤独から離れに来るのかもしれない」_15
周辺には川が流れ、4月中旬には桜が咲いていた

苫屋を訪ねる人は、何を求めてこの山奥まで足を運ぶのだろうか。

充さんは「常連の名古屋のバンドリーダーは『ここで見る星が楽しみ』と言ってるし、岡山の常連は『飲み食いや人との縁』って言うね」と語る。

「都会の喧騒から離れて静かな時間を、というのももちろんあると思うけど、常連さんはここでいろんな人に会ってお友達が増えたりするのも楽しみなんじゃないのかな」と久美子さん。

同じタイミングで宿泊した客が友人になったり、ふらっと顔を出しに来た地元住民と宿泊客が知り合いになったりするというケースも多い。

「うちに来てくれるお客さんは、孤独というものから離れに来るのかもしれないね。一緒にご飯を食べたりおしゃべりしたり、近所の人たちも『(村に)来てくれてありがとう』ってごあいさつしにきてくれたりする。囲炉裏というぬくもりと、人の心のぬくもりに触れたくて来てくれるのかも」(久美子さん)

【宿泊体験記】予約は手紙のみ、文明から離れた“不便な宿”が国内外にファンを持つ理由とは? 「孤独から離れに来るのかもしれない」_16
すべての画像を見る

終わり

前編はこちら>>

取材・文・撮影/堤 美佳子
編集/一ノ瀬 伸

苫屋 とまや
住所/岩手県九戸郡野田村大字野田第5地割22
営業時間/カフェ・ランチは午前10:00~午後5:00頃(予約不要)
宿泊料金/1泊2食付き・4〜10月:8800円、11〜12月、3月:9400円(消費税・サービス料込み、浴衣利用は600円、バスタオル利用は300円)
冬季休業/12月28日~2月末
問い合わせ・予約/手紙またははがきのやり取り(往復はがきか、返信用切手同封だとありがたいとのこと)
参考/野田村観光協会HP https://www.noda-kanko.com/kankou/stay/tomaya.html