後編の記事はこちら

電話もテレビもない宿「嵐って誰?」

岩手県盛岡市から車で約2時間半。北三陸に位置する岩手県野田村の、最も山深い集落に「苫屋」はある。

築165年ほど経つ茅葺き屋根の古民家の民宿とカフェ。31年前から坂本充さん(63)、久美子さん(65)夫婦が営んでいる。

手紙でしか予約できない岩手・山奥の宿「苫屋」の夫婦が愛する“不便な暮らし” 「今の人はスマホに楽しみを奪われている気がして気の毒だなと」_1
31年前から苫屋を営む坂本充さん、久美子さん夫婦
すべての画像を見る

スマートフォン全盛の現代において予約方法は手紙・はがきでのやり取りのみで、インターネットや電話での予約はできない。宿を始めた当時に電話線がなかったため、そのまま今日までやってきたという。

そんな“不便な宿”ながら、国内のみならず海外からも宿泊客が訪れており常連客も多い。知る人ぞ知る名宿なのだ。

手紙でしか予約できない岩手・山奥の宿「苫屋」の夫婦が愛する“不便な暮らし” 「今の人はスマホに楽しみを奪われている気がして気の毒だなと」_2
宿から届いた予約完了の返事のはがき

宿にはテレビもない。携帯電話の電波は入るものの、坂本さん夫婦はパソコンやスマホを持たず、情報収集はラジオが中心だ。

4月中旬の取材の数日前には、嵐の櫻井翔がMCを務める『1億3000万人のSHOWチャンネル』(日本テレビ系)で苫屋が取り上げられたばかりだったが、坂本さん夫婦は「まだ放送は見られていない」と笑う。

久美子さんは番組から取材依頼があったときのことをこう振り返った。

「うち電話ないから、地元の観光協会の方に連絡があったみたい。それで『こういう電話があったよ』ってわざわざ宿まで携帯電話を貸しに来てくれたの。直接電話でやり取りして、(番組担当者から)『嵐の人たちの番組なんです』って言われたけど、『嵐って誰? 全然わかんない』って言ったら、『え~』って(笑)」(久美子さん)

「だってうちテレビないもんね」と充さん。

手紙でしか予約できない岩手・山奥の宿「苫屋」の夫婦が愛する“不便な暮らし” 「今の人はスマホに楽しみを奪われている気がして気の毒だなと」_3
岩手県野田村の山奥にたたずむ苫屋