祖父も父も母も有名な三世俳優たち
今の日本の映画界でも、まだスターと言えないとはいえ、三世はそれなりの数存在する。堺正章と岡田美里の娘・堺小春は『曇天に笑う』(2018)や『検察側の罪人』(2018)のほか、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(2019)にも出演した。堺正章の父で昭和の名コメディアン堺俊二は数多くの映画で活躍したし、岡田美里の父で司会者として知られるE・H・エリックも映画にも随分出た人だが、どちらも活躍した時期が半世紀ほど前だから、今の人にはほとんどなじみがないだろう。
時代劇スターの近衛十四郎は、一昨年、筆者が評伝を出したあと、代表作『柳生武芸帳』シリーズ(1961~1964)が東映チャンネルで一挙放映されたり、テレビ時代劇の代表作『素浪人月影兵庫』(1965~1968)、『素浪人花山大吉』(1969~1970)がDVD-BOXで発売されたりと、再評価が進んでいる。
息子である松方弘樹と目黒祐樹は、共に俳優として大成し、どちらの子どもたちも芸能界入りした。中でも目黒祐樹と江夏夕子の娘・近衛はなは、『獄に咲く花』(2010)や『100年ごはん』(2014)に主演した。
親子ともにNHK大河ドラマの主演を務めたのが緒形拳とその息子の緒方直人。緒形直人と仙道敦子の息子である緒形敦は、『劇場版 ルパンの娘』(2021)、『LOVE LIFE』(2022)、『THE LEGEND & BUTTERFLY』(2023)に出演している。正直言ってまだまだ未知数。今後、父や祖父にどこまで迫れるか要注目だ。
ハリウッドを代表するフォンダ家とバリモア家
“三世スター”はもちろんハリウッドにも存在する。だが、生き馬の目を抜くような熾烈な競争社会であるアメリカでは、ある意味では日本の芸能一家などよりもはるかにレアなケースのように見受けられる。
思い浮かぶ例としては、フォンダ家とバリモア家がある。フォンダ家は、『怒りの葡萄』(1940)、『荒野の決闘』(1946)、『十二人の怒れる男』(1957)などで知られ、“アメリカの良心”を体現する名優として知られていたヘンリー・フォンダ、その子どもで『コールガール』(1971)と『帰郷』(1978)でアカデミー主演女優賞2度受賞のジェーン・フォンダ、その弟で『イージー・ライダー』(1969)の製作・主演で知られるピーター・フォンダという一家をベースに、ジェーンの息子トロイ・ギャリティ、ピーターの娘ブリジット・フォンダという俳優一家だ。
ヘンリーとジェーンとの父娘の確執と和解は三國連太郎と佐藤浩市のそれよりも有名かもしれない。“三世スター”としては、孫のブリジット・フォンダが1990年代にハリウッドのトップ女優のひとりとして活躍したが、2003年に人気映画音楽家ダニー・エルフマンと結婚してからはスクリーンを遠ざかっている。
バリモア家のほうは祖父母の代のライオネル・バリモア、エセル・バリモア、ジョン・バリモアが“バリモア三兄姉弟”として、いずれもサイレント映画期のアメリカを代表する名優だった。そのうち“偉大な横顔”と呼ばれた二枚目スターで『狂へる悪魔』(1920)や『ドン・ファン』(1926)で知られたのがジョン・バリモア。
そのジョン・バリモアと、彼の3人目の妻だった女優ドロレス・コステロ(両親もやはり俳優だった)との間に生まれた息子が俳優ジョン・ドリュー・バリモアで、そのジョン・ドリュー・バリモアと女優ジャイド・バリモアとの間に生まれたのが『チャーリーズ・エンジェル』(2000)、『50回目のファースト・キス』(2004)で知られる女優ドリュー・バリモアということになる。
ああ、ややこしい。ドリュー・バリモアは“三世スター”としては極めて成功した例だが、やはり両親との確執が知られている。