長澤まさみ演じる大友秀美は、原作では男性だった

長澤まさみ×前田哲「長澤さんの演技に、松山ケンイチさんが『震えた』と言っていた気持ちがわかります」_1
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斯波宗典(しば・むねのり)は訪問介護センターで模範的な職員だった。常に被介護者に寄り添い、不幸があれば家族のように悲しむ献身的な勤務姿勢。介護士の鑑だと、誰もがそう信じていた。

そんな「当たり前」を疑ったのが、検事の大友秀美である。彼女は、斯波が所属するセンターで異常な数の死者が出ていることを突き止めた。事件を調べていくうちに浮上したのが、「善良な介護士」――斯波だった。

大友の取り調べで、斯波は40人以上もの被介護者の命を奪ったことを認め、犯行動機を「救い」と供述した。社会通念上、それは明らかな「殺人」であり、許されることではないと訴える大友は、仮面を剥いだ斯波の言葉に、戦慄を覚える。

「喪失の介護。ロストケア」

大友を演じる長澤まさみと斯波を演じる松山ケンイチが初共演した、3月24日公開の映画『ロストケア』は、葉真中顕原作『ロスト・ケア』(光文社文庫)とは異なる呼吸を持つ物語である。

メガホンを握った監督の前田哲にとって、本作の公開は10年越しの成就だった。2013年に刊行された原作を耽読してから映画化を熱望していた前田は、想いをこう綴る。

「介護だけじゃない、日本が抱えている問題が凝縮されていると感じました。葉真中さんが原作で描いた問題提起を、俳優さんの生の声でみなさんに届けたいと思ったんです」

原作にはない、映画の息吹。それは、大友役が男性から女性に変更されたことである。大胆とも思える決断の意図と、そこに長澤を抜擢した真意を前田が説く。

「例えば医師は男性、看護師は女性みたいな勝手なイメージを打破するために映画を作っているところもありますから。今作は40人以上も殺めた強烈な人物であり、『役が憑依する俳優さん』と評価されている松山さんを受け止め、対抗できうる俳優さんは『長澤さんしかいない』というのが、僕を含めたプロデューサーの想いでした」

そして前田は、本作における映画としての独創性と息づかいを、このように表現した。
映画とは、生き物である――と。

――今作『ロストケア』は、前田監督が10年間、温めてこられての映画化となりました。長澤さんは、撮影現場で監督の熱量をどのように感じましたか。

長澤 でも、ざっくばらんな、本当に優しい監督さんなんです。常に「元気ですか?」みたいなことを言いながら話してくれて。

前田 緊張感を邪魔してたかな?

長澤 すごくシリアスな作品なので、みんな緊張感を壊さないようにしてたんですけど、監督は全然お構いなしに(笑)。

前田 「長澤さんと松山さんの邪魔をしてはいけない」って、普段の現場より言葉少なめに。真面目にやってましたけどね。

長澤 そうなんですね(笑)。大阪の兄ちゃんって感じで、現場を温めてくれてましたよ。