「自動車も買ってくれました」
知り合って2年。TさんはN子さんに恋心以上の信頼を寄せているようで、「もし自分が病気などで体が不自由になってしまったら、うちの近所に住んで面倒を見てくれないか」というお願いまでされたそうだ。
「『もし僕が認知症になったら施設に行くけれど、頭は健全でも体だけ動かないという状態になってしまったら面倒を見てほしい。家族にもN子さんに面倒を見てもらうことを伝えてあって了解を得ている』というんです。その際は月額これくらいで、と具体的な金額も提示されています」
Tさんは家族にN子さんのことをどう伝えているのか。実はすでにN子さんとTさんの娘とは面識があるのだという。
「Tさんは別荘を持っており、そこに遊びにおいでと誘われたので、私の子どもたちと一緒に観光を兼ねて訪ねたんです。そこにTさんの娘さんもいて、私のことは『お世話になっているN子さんだよ』と紹介していました。
あちらも、なんとなく事情を察しているみたいで、『どうも、父がお世話になっています』『ご迷惑をおかけしています。父は奔放なところがあるので……』と挨拶をされましたが、根掘り葉掘り聞かれることはありませんでした」
体が不自由になった時に身の回りの世話をしてほしいと考えるのは、お金目当て、体目当の関係を超えているだろう。恋人以上夫婦未満の関係といったところか。
また、情を込めて接してくれるN子さんに対し、Tさんは自動車も買ってくれたそうだ。
「子どもはママチャリの後ろに乗せられる年齢ではないので、習い事の送り迎えなどで困っていると話をしたら『だったら車を買ってあげるよ』と軽自動車を買ってくれました。
デートの時はこの車で送り迎えもしているんですよ。意味のあるお金ならいくらでも出すよと言ってくれるんです。
Tさんをはじめ、高齢になると誰かの役に立ちたい気持ちが強くなるのかなと感じます。介護の仕事でも訪問介護先で『家族で一緒に食べて』と野菜をたくさんいただいたり、『これでお子さんに何か買ってあげて』とお金を包んでくる方もいらっしゃるんです。誰かの役に立って、ありがとうと言われたいのかもしれません」
高齢者となって社会との接点が少なくなり、自分が社会の一員として役に立っていると思えない、お荷物になっていると感じているからなのだろうか。