現在借りている一戸建ての家賃は、都心のマンションの数分の1で済んでいるものの、断熱も施していない古い家は冬寒く、電気代は東京時代の3倍に。また、下水道普及率は町全体で50%以下、ガソリン代も東京より高い。
それでも英守さんも、こちらの暮らしに満足していると話す。
「今は田舎でも物流も発達し、リモートで国内外どこにでもつながれる。都市から地方への移住が昔みたいなリスクの大きい冒険ではなくなってきました。新天地での生活を切り拓きたいという希望、ニーズに、時代がついてきたというか。
ここでは、お金をかけなくても豊かに暮らせます。それに対して大都市は、お金で物事を解決するようにできている。
大森町では東京に比べて、人と関わる時間が圧倒的に多い。ネットではなくリアルに一緒に過ごす時間が、他人同士の間にも愛情、愛着を育んでくれる。自分を含め、潜在意識でつながりを求め、それを楽しむ人が集まってきていると感じます。リアルなつながりを楽しめる人がこれからも来てくれたらいいなぁと思います」
昔から多くのよそ者も受け入れ、発展してきた石見銀山。今、都市部からの移住者が多いせいか、若い人たちが新しい価値観で集まり、現代のコミュニティをつくっている。古いイメージの田舎の閉鎖性はなく、人と人とがちょうどよい距離で風通しよくつながる印象を受けた。
「東京」と「地方」というステレオタイプな二極の構図は最早存在しないのかもしれない。どの地域であれ、住民と町が魅力的かどうかが、人が集まり、存続できる大きな要因になるのではないか。新たなつながりを紡ぐ集落で、多くを教わった気がした。
撮影/渡邉英守 取材・文/中島早苗
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