もうひと組、同じく東京からの移住組で、妻で群言堂のオンライン事業部で働く渡邉千絵さん(37)と、夫でフリーカメラマンの英守さん(41)の例を紹介しよう。

―戸建ての家賃は4万円だが、電気代は東京の3倍に。それでも山陰の集落へ移住した2組の家族が石見を「第二のふるさと」として愛せるワケとは_6
千絵さん、英守さんは共に関東育ちだが、「子育てが終わっても大森町の暮らしを楽しみたい」

千絵さんは愛知県生まれの神奈川県育ち、大学からは東京暮らしだった。英守さんは兵庫県生まれ、埼玉県育ち。二人は東京の広告制作会社の同僚として知り合い、2018年に結婚、都心に住んでいた。現在、ひかりちゃん(4)と守くん(1)を育てながら共働き中だ。

移住のきっかけは、コロナ禍だった。転職して群言堂の都内店舗で働いていた千絵さんだったが、長女ひかりちゃんが1歳半になるタイミングでコロナ禍に。保育園は登園を制限され、都心のマンション近くの子育て支援センターや公園もクローズ。行く場所がなくなってしまった。

イベント撮影が中心だったカメラマンの英守さんの仕事も厳しくなり、また群言堂もオンラインストアにより力を入れる方針になったことで、千絵さんは大森町の本社への異動の打診を受ける。
東京での仕事、子育てに不安を感じていた二人は、家族で大森町への移住を決めた。

東京の暮らしから一転、仕事も子育ても環境が大きく変わったが、千絵さんは「だんだん、東京に戻ることが想像つかなくなってきた」という。

「ここでは、東京に比べて暮らしで関わる人の数が段違いに多く、関わりが増えるほど『ホーム』になってきたと感じます。今、暮らしに不足も不便もなく、逆に東京だけでしか得られないものがなくなってきたというか。

大学時代、ヨーロッパの古い町並みに憧れてフランス文学を学びましたが、この大森も古いものを生かした町並みが素敵で、何か根底でつながっているように思います。あの頃抱いたのと似た憧れ、ときめきを、この町にも感じるんです」

―戸建ての家賃は4万円だが、電気代は東京の3倍に。それでも山陰の集落へ移住した2組の家族が石見を「第二のふるさと」として愛せるワケとは_7
千絵さんは、コロナ禍以降群言堂が力を入れるオンライン事業部に勤務