『おしゃべり階段』『いつもポケットにショパン』あたりから、くらもち先生が愛用しはじめるのが、カラーインク。50周年記念画集『THEくらもちふさこ』に収録された聖千秋先生との対談でも、聖先生が「のちの別マの作家は、くらもち先生が使っている画材を使えば間違いないとみんなで真似をした」「はじめて自分が予告カットを描く前に、担当編集が、くらもち先生のカットを見本としてみせてくれた」と証言するほど、くらもちふさこ先生が描くカラーイラストが、その時代の少女まんがの代表色になっていたのだ。
透明感のある肌、目にもまぶしいショッキングピンク、2色印刷の朱を活かしたストーリー展開……背景と前景を別々に描き、製版で合成する想定で描かれた本文カラーや扉の数々は、くらもち先生自身が「私にとってのゴール、完成形は、雑誌として印刷されたもの。原画はその“もと”でしかないの」と言う通り、原稿を受け取った編集者・デザイナー、製版担当者をも巻き込んだ「総合芸術」として花ひらく。『天然コケッコー』では、総天然色の美しい自然をコピックで映しとり、CGの時代になると3D表現も組みあわせ、不思議の世界へと読者を誘うイラストが多数制作されるように。こうして、作風も、画材も、ツールもどんどん変化していく理由を「飽きっぽいから」とくらもち先生は語るが、どうもそれだけが理由ではないようだ。
原画集「THEくらもちふさこ」には、ふたつの「花火の絵」を掲載している。
ひとつは初の連載作品となった『おしゃべり階段』(1979)の扉絵。
もうひとつが『天然コケッコー』の映画化に合わせて執筆された『天然コケッコー特別編』(2007)の扉絵。
CG合成された『天然コケッコー』のイラストは、くらもち先生お気に入りの1点でもある。画集にも展覧会会場にも掲示されるセルフコメンタリー「KURA VOICE」によると…
『おしゃべり階段』で花火を描いた表紙があるのですが、頭にある花火の光がどうしても描ききれず、惨敗。デジタルの時代となり、イメージ通りの花火と組み合わせることができ、長い年月を経てようやく満足しました。『糸のきらめき』の最終ページには少しだけ白いコマを入れてあるのですが、これも光を表現したものです。この頃から光を描いてみたいと、まんがで光をうまく表現することは出来ないだろうかと、ずっと意識してきました。
20年以上心に秘めた、イメージ通りの花火。今でもずっと描きたいと思い続けている光。『いつもポケットにショパン』では、絵には描けない“音”を描いた。そう、くらもち先生が描こうとしているのは、言葉にもならない「心のふるえや、きらめき」そのものだ。
創作する際は、物語を三次元の実写・音声付で“見ている”と言う、くらもち先生。
その時“見えた”きらめきを読者にとどけるため、様々な画材を駆使して彩り、二次元にパッケージしようと試み続けているのではないだろうか。
無垢な少女が感じる<ときめき>を描くため、あくなき挑戦を続ける表現者・くらもちふさこ。原画展では、50年に及ぶくらもちふさこ先生の試行錯誤の歴史が時系列で体感できる。3月30日からは第3期、4月27日からは第4期展として、カラーイラストを総入れ替えして展示。すでに会期が終了している1期についても、集英社オンラインの独占アーカイブで写真・動画をこちらからぜひ。
しかし、原画の持つ迫力は、実物の目の前に立った者だけが感じられるスペシャルなもの。時間に余裕があれば、ぜひご予約のうえ、弥生美術館まで足をのばしてほしい。
くらもちふさこ展アーカイブ 第1期
―――関連情報―――
●「ココハナ」5月号(2022年3月28日発売)では、『とことこクエスト』にて弥生美術館情報+くらもちふさこ50周年情報として「くらもち男子妄想札合戦」掲載。
●「ザ マーガレット」2022年春号(2022年3月24日発売)では、『くらもちふさこQ&A30』で読者の質問に熱く解答&紙版にはくらもちふさこ名作クリアファイル付き
―――公式SNS―――
くらもちふさこ展公式Twitter @Kuramochi_ten
「THEくらもちふさこ」「くらもちふさこ展」制作秘話を不定期にツイート中。時々くらもちふさこ先生も登場します。
【デビュー50周年記念 くらもちふさこ展 その2】へ続く
※その2は4月5日18時に公開します
取材・文 ハナダミチコ