原画集制作の要・プリンティングディレクターに注目
プリンティングディレクター(PD)とは、作家やブックデザイナーがイメージした発色の印刷を実現する、現場の指揮官。インキや紙、製版などの専門的な知識を駆使し“イイ感じ”に仕上げてくれるブレインだ。『THEくらもちふさこ』のPD・栗原哲朗さんは、集英社に原画が届いた直後から最適な印刷方法を模索していたそう。
打ち合わせでは、ニコニコしながらほとんど声を発さない寡黙なタイプの栗原さんだが、名久井さんとは、専門用語や具体的な数値で何やら熱心に論議を重ねている。編集部のメンバーが「かわいくしたい」「ページをめくったらパ―ッと気持ちが明るくなるような」などと身ぶり手ぶりで話している間に、4組のインキセットによるテスト印刷の段取りが決まっていた。
栗原:何十年も経つ原画もありましたが、色褪せずとても綺麗な色彩のままでした。先生の筆のタッチや色づかいが本当に美しく、今見ても新しい表現やデザインに感動しました。しかし同時に「通常のプロセスインキではとても再現できないな」とも思いました。特に蛍光系のピンク・グリーン・オレンジなどが多用されているので、C・KP版を異なる組み合わせで試してみたいと考えたのです。
文系の印象が強い出版業界だが、印刷は化学・工業の理系分野。仕上がりのイメージを具体的に指示できるデザイナーと、印刷現場の機材や資材に合わせ、運用ベースに変換できるプリンティングディレクターを両軸に、作家側/印刷側の窓口役として奔走する編集担当、営業担当がコミュニケーションをとりながら制作業務が進行する。プロジェクト全体をスムーズに進めるために大切なのは、ゴールに対する共通認識だ。