「家庭を持つことが幸せ」
と信じる親を持つ40代
主人公の西村清美は46歳、教師、結婚歴なしの独身。安定した職業につき、忙しくはたらくうちにいつの間にかひとり暮らし歴を重ね、嫁がず産まずに、この年に。
時間とお金を自分だけに費やせるおひとりさま暮らしを楽しんでいたつもりだったのに、突然訪れた更年期症状に動揺し、「病気になったらどうする?」「死ぬときには誰にも看取られないの?」といった不安がよぎり始める……。
中年独身女性の孤独を描いた本作はどのように生まれたのか。担当編集者の今野加寿子氏は語る。
──『さいごの恋』の連載が始まってから、反響はいかがですか?
おかげさまで、回を追うごとにP V数が伸びています。主人公の清美さんと同世代の女性がアクセスしてくださっている印象がありますね。
──46歳の独身女性が主人公という設定は野原作品には珍しいですよね?
出産適齢期をギリギリ過ぎた微妙な年齢設定ですよね。もちろん、子どもを産む人生と産まない人生、どちらがいいか悪いかを測ることはできません。それでも、この主人公のように、いたかもしれない子どもや、できていたかもしれない孫について想いを巡らせるのが、この世代の女性にはあるのかもしれません。
──主人公の清美さんは、恋も結婚もしなくていいと思っていた人。ところが更年期障害の症状が現れ始めたころ、年下の友人が再婚したことで心境に変化が訪れます。
現在はさまざまな価値観が更新されつつある過渡期ですが、40代は家庭を持つことが幸せだと信じていた世代を親に持っているので、「自分は独身でも満足している」と開き直りきれないんです。
清美さんの場合は、これから先の人生、誰にも心配されず、男性と手をつないだりスキンシップをすることもなく一生を終えるのかという不安の中で、飼っていた猫も亡くなってしまう。物語はその喪失感から始まりますが、野原さんはそこに更年期障害やマッチングアプリなどをトピックとして盛り込んでいらして、段階を踏んで提示される清美の現状が、ぐいぐいと読み手に落とし込まれていきます。
──仕事も趣味も充実しているはずなのに、ふと孤独を感じてしまう描写のひとつひとつがリアルです。野原さんはどのようにリサーチをされているのでしょう?
野原さんも担当の私も、結婚・出産を経験している50代ですので、ずっと独身でいる40代女性の気持ちをすベて理解することは難しくて。作品にそのまま反映するわけではないのですが、私の周りにいる独身女性のエピソードを野原さんにお伝えしたこともあります。
それと、野原さんは、ふだんの生活の中でまめにニュースをご覧になったり、漫画や小説、映画などを通して、必要なところをすくい取っていらっしゃるのでしょうが、その着眼点と膨らませかたは常に意表を突くので、さすがだと思います。
──『さいごの恋』の今後の展開をこっそり教えてください。
ウェブサイト「よみタイ」での連載は、全部で15回ほどになる予定です。具体的な展開はお伝えできませんが、野原さんの漫画ですので、わかりやすいハッピーエンドになるはずがありません(笑)。これは野原作品すべてに言えることですが、漫画を読んだ方が「実は私も……」とご自身のお話をされるんです。そういった“共感”を自分ごととして誰かにしゃべりたくなってしまうのは、いい漫画の条件かもしれませんね。
取材・文/松山梢
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