サイクルの速さが進化を促すラップカルチャー
「俺はめちゃくちゃロジカルに曲を作るタイプではないんですよ。Creepy Nutsの作品でも、DJ松永から指摘されて『あ、そうやったんや』と気づくことも多いし、自分のラップやリリックが全部、自分の中で整理されてるわけではない」
そう話すR-指定。幾重にも織り込まれた意味合いや、多層的なライミングなど、彼の作品は非常に構築的な部分を感じさせ、それがポピュラリティを得る一因にもなっている。それと同時に、同業者やヘビーリスナーまで唸らせる理由にもなっているが、それは先人たちの積み重ねの上にもあると話す。
「ZeebraさんやMummy-Dさんの作品を分析すると、改めてロジカルにご自身のラップや作品を考えながら作られてたんやなと思わされることが多々あるんですよね。
それは、日本でラップが確立する以前から、日本語でラップをすることにチャレンジしてきた人たちやからこそ、英語のラップを分析して、分解して、それをどうやって日本や日本語に取り入れるかという模索を通して、様々なロジックを生み出し、いまの日本語ラップを作ったと思う。
俺はそういう悪戦苦闘の上で成り立ったものを吸収して、日本語でラップを始めた世代やからこそ、そういう先人たちから受けた恩恵を、作品も含めて様々な形で、ちゃんと形にしたいなと思うんですよね」
同時に『サイクルの速い文化』『消費される音楽』だからこそ、言葉として残したいという意思もあると話す。
「やっぱりヒップホップはユースカルチャーの部分が強いし、トレンドや消費サイクルの超早い文化なんですよね。それなのに言葉数や情報量が多い、制作には鬼のように手間がかかるという、矛盾だらけの音楽でもある。
こんなにも時間をかけたり、新しいトレンドを必死で取り込んでも、リリースの半月後には、もう次の周回が始まってる。そのサイクルの速さと労力の合わなさには、そりゃ悲観するときもありますよ(笑)」
ただ、そのサイクルの速さこそが、進化にもつながっているという。
「ヒップホップはサザンオールスターズの曲で言えば『ミス・ブランニュー・デイ』なんですよね。俺もCreepy Nutsの曲『阿婆擦れ』でその部分を歌ってますけど、とにかく流行の最先端をみんな求めて愛でるし、その時代を代表するアーティストもすぐに変わっていく。そのトレンドの移ろいのスピードの速さを、昔は悲観的に捉えてた部分があるんです。
だけどそれを“シーン全体”という大きな目で見ると、流行が変わることによってスキルに変化が生まれて、シーンに新しいヒーローやヒロインが生まれることで、ラップの水準が更新されていく。その繰り返しでラップは進化していくんですよね。そして、その進化や変化の根本には、それまでにラッパーやシーンが生み出してきた「スキル」が蓄積されている。
だからヒップホップというシーンは、アーティスト同士は当然ライバルでもあるんだけど、同時に“チーム”やと思うし、ラップのスキルはチームプレーなんですよね。自分もそのチームのメンバーであり、自分の作品も後世に残っていけたら、自分のスキルも誰かに引き継いでいって貰えればと思いますね」
その蓄積やチームプレイの魅力を、改めて言葉にし、書籍化したR-指定。
「いろいろ難しく話したり、意義を語ったりもしてますけど、根本的には『この曲ヤバない!?あいつのスゴさ忘れんなよ!キャッキャ』みたいな本なので、軽い気持ちで読んで欲しいですね(笑)。これからも日本語ラップ紹介は続けていくし、単純にそれが自分の趣味というか、楽しみでもあるので、今後も楽しみにして頂けると幸いです」
取材・文/高木“JET”晋一郎 撮影/田中健児、河西遼(R-指定&CHICO CARLITO)