患者さんと心でつながる瞬間

【漫画あり】毎日全裸でバットを振り、飼い猫まで殺した男と向き合う…精神障害者の説得を続ける男・押川剛が危惧する対応困難な患者さんほど見捨てられる現実。「この国では、資格を持つとルールで行動が縛られてしまう」_5

――実際に漫画を制作する流れを教えてください。

まず、私がプロットを書くのですが、物語だけでなく、膨大な視察調査データのストックから、すべての場面に写真資料をつけて渡しています。それを担当編集者(新潮社・岩坂朋昭次長)とすり合わせてから鈴木先生に渡し、鈴木先生がネームにしたものを改めてチェックします。

そこから修正したもので作画をしてもらい、完成したら再び確認作業を行って、修正箇所があればまた指摘を入れさせてもらいます。ですから、同じ原作ものの漫画でも、通常の倍以上は手間がかかっていると思います。

――それだけの作業があるからこそ、あのリアリティが生まれているわけですね。

鈴木先生の才能も大きいと思います。ネームの割り方は鈴木先生独自のものなので、漫画『「子どもを殺してください」という親たち』は、鈴木先生とそのアシスタントさんを含めた、このチームだからこそできた作品だと思っています。

――押川さんがこれまで積み重ねてきた資料の存在もとても大きいですよね。

すべて写真やビデオに記録しているので、そこからくる圧倒的な事実はありますね。視察調査を徹底するようになってから、長い患者さんで何十年もの付き合いがあるので、その人だけで電話帳並みの分厚い資料が30冊以上になります。彼が生きている限り、これからも増えていくはずです。

――関係を続けている患者さんで、印象深い方はいますか。

1巻で取り上げている、飼い猫をバットで殴り殺した荒井慎介(仮名)ですね。私が病気で倒れたときも「心臓の方は大丈夫ですか?」と、気遣ってくれました。

【漫画あり】毎日全裸でバットを振り、飼い猫まで殺した男と向き合う…精神障害者の説得を続ける男・押川剛が危惧する対応困難な患者さんほど見捨てられる現実。「この国では、資格を持つとルールで行動が縛られてしまう」_6

彼は、病院の中ではちゃんとした生き方ができるんですが、退院したら確実に事件を起こします。自分でもそれをわかっているのに、「そろそろ退院したいんです」と言ってくるんですよ。

【漫画あり】毎日全裸でバットを振り、飼い猫まで殺した男と向き合う…精神障害者の説得を続ける男・押川剛が危惧する対応困難な患者さんほど見捨てられる現実。「この国では、資格を持つとルールで行動が縛られてしまう」_7

そんなとき私は、「お前の寿命は100年ぐらいなのか? 5千年、1万年生きるよな?」と返します。すると「そうですよね? まだまだ2、3日のレベルですよね。僕もそう思います!」って、泣いて喜ぶんですよ。病気の妄想もあるけれど、そうやって会話がパチッと噛み合ったときは、人間関係を作れていることを実感できて最高ですね。