対応困難な患者さんほど見捨てられている現実
――1つのケースにそれだけの労力がかかるとなると、あまり多くの方に対応できないですよね。
そうですね。特に、いま現在は多くの方に対応できなくなりました。というのも、まず受け入れてくれる病院がほとんどありません。以前は対応困難なケースに取り組んでくれるお医者さんもたくさんいましたが、みんな高齢となり、国もまったく育てていないんです。
いまの病院はほとんどが「自分は病気です」と言える、任意入院の患者さんが主体になっています。そういう人は短期間で退院もしてくれて、費用対効果がいい。退院までが短いほど診療報酬点数が高いので、治療に長期間を要する患者さんはいらないわけです。
だから、対応困難な患者さんが見捨てられている一方で、一見すると「本当に病気かな?」と思うような人たちが、充実した制度を利用して楽に生きている現状があります。
――もともとノンフィクションだった同名著書を漫画化したのは、そのような状況を広く周知するためでもあったのでしょうか。
そうですね。精神保健福祉法や障害者総合支援法に関連する制度の利用は非常に煩雑であり、精神疾患にも様々なケースがあります。だから、実は自分の身近な人が問題を抱えているのに病気と認識していないこともあります。それを漫画という視覚に訴えるツールを使って伝えたいという思いは以前からありました。
漫画を描いてくださっている鈴木マサカズ先生にお願いしているのは、細かいところまで事実をおろそかにせず描いてくださるからです。例えば、精神科病院での医療従事者や、警察に介入してもらった際のやりとりなど、私が経験したことをありのままに描いてもらっています。 日本では漫画はほかのメディアよりも規制が少ないので、事実を伝えるのにとても適していると思いました。