「鍋」で巨大な骨を煮て標本を作る

––死体を解剖したあとは、それを標本にするんですか?

はい。標本にも種類があって、たとえば博物館などで見る剥製標本や骨格標本は「乾燥標本」と呼ばれるものです。骨格標本を作る方法は、解剖した上で骨格からできるだけ肉や内臓などを取り除いて、その骨を煮たり、浜に埋めて再発掘したりする方法があります。

––骨を煮る…?

骨格を煮るための「晒骨機(せいこつき)」という機械があるんですよ。私たちは「鍋」と呼んでいるのですが、その中で2週間から1ヶ月くらい煮続けて、高圧洗浄機やブラシで洗い、細かい筋肉や油脂を取り除けば完成です。

––1ヶ月も煮続けるんですか!

死体を埋めて再発掘する方法もあるのですが、その場合は二夏はかかるんです。2年が1ヶ月に短縮できるなら、そっちのほうがいいですよね。コストはかかりますが、標本の完成度としても、煮たほうがレベルが高いです。

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茨城県つくば市・国立科学博物館内にある動物研究部の解剖室
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骨を煮るための「晒骨機」

––もし私たちがストランディングを見つけたら、どうしたらいいのでしょうか?

基本的にストランディングを見つけたら、自治体か警察、消防署などに連絡してください。近隣の水族館や博物館も選択肢の1つです。そうした機関が適切な対応をしてくれるはずです。

––田島さんはこの研究を通じてどういったことを発信していきたいですか?

研究を進める中で、近年、海洋汚染がストランディングに関係しているのではないかという説が浮かび上がってきました。
以前、シロナガスクジラの幼体を解剖した際、胃からプラスチック片が見つかったこともあったんです。

ストランディング個体の調査は、海洋環境や海洋生物に起こっている「今」を知る方法の一つ。海洋生物が自らの死をもって教えてくれる情報を拾い上げ、発信することで、社会全体で海洋環境やそこに棲む生物と共存していくにはどうすればいいのかを考えるきっかけが作れるよう、これからも現場に向かいたいと思います。

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解剖のために研究室に運び込まれた新潟県の海岸で発見されたハンドウイルカ
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取材・文/崎谷実穂