トラフィックが追える時代に、あえて数字よりも感性を信じる

『怪獣8号』は日本では4巻発売時点(現在、6巻まで発売中)でコミックスの売上が「少年ジャンプ+」史上最速400万部を突破するなど、数々の記録を打ち立ててきた。

また、集英社は2019年1月から海外向けに「少年ジャンプ」「少年ジャンプ+」などの作品を多言語でサイマル配信する「MANGA Plus by SHUEISHA」(以下、「MANGA Plus」)というサービスを提供しているため、フランスでどのくらい閲覧されているのかを知ることも可能だった。

これらの国内外のアプリでの閲覧数やコミックスの部数を見て判断した――のかと思いきや、なんとそうではないという。

「『怪獣8号』の1巻が出る以前には、『MANGA Plus』では英語版しか配信されていなかったし、われわれは『MANGA Plus』上での反響を把握していたわけでもない。『怪獣8号』が絶対にヒットすると思った最大の理由は、“作品の質”だ。弊社の全員が『この作品はすごい。フランス市場にマッチする』と思ったから多額の投資を決めたのだ」(Kazé France・ヴァルス編集長)

Kazé Franceのマンソー部長は「数字より感性を信じる。フランス人らしいでしょう」と言って笑う。だが作品の力を信じて賭ける姿勢に、筆者はジャンプマンガらしさを感じる。

第1巻からフランス人の心をわしづかみにした(写真提供/Kazé France@lenaperdrige)
第1巻からフランス人の心をわしづかみにした(写真提供/Kazé France@lenaperdrige)

「『MANGA Plus』の立ち上げ以降、海外から翻訳のオファーが今まで以上に来やすくなった印象はありますね」(集英社ライツ事業部海外事業課・小野房副課長)

各国の出版社は熱意をもって作品選定を行っているが、スタッフ全員が日本語を読めるというわけではない。しかし、「MANGA Plus」立ち上げ以降は連載1話目の時点から、英語や各国語で現地出版社の皆が実際にマンガを読むことができるようになり、彼らが“作品の質”を確信する助けになっていると考えている。