“外様監督”への反発

校名が変わったとはいえ、名門初の“外様監督”の就任には反発が起きた。

能代工にとってレジェンドである、前監督だった小野の解任をいまだ納得しきれていない者も多く、保護者の大半も「小野監督に教えてもらうために我が子を入学させたのに」と息巻き、嘆いた。

彼らの主張から言うなれば、小松は「招かれざる監督」だった。

「誰も喜ぶ人がいませんでしたから。地域の方、保護者。私の家族も嫌がっていましたし、なにより自分自身が喜んでなかったですから」

高校バスケ、あの能代工は今。校名変更、外様監督への反発、新部員3人…現監督の奮闘「私は何を言われてもいい。でも」_3
小松元監督

しかし、周囲の露骨な忌避感が、意外にも新監督を冷静にさせた。

自分に能代工の色がないからこそ、指導者にとっての原点に立ち戻れた――そう訴えかけんばかりに、小松が主張する。

「『なんで俺が、そこまでこの学校を背負わなくちゃいけないんだろう?』って思いましたが、大事なのは子供たちです。周りからいろいろ言われて『じゃあ、知らない』と投げだしてしまったら、子供たちは試合ができなくなってしまうじゃないですか。私は何を言われてもいい。でも、子供たちを不安にさせたり、心配させるようなことは避けたかったんです」

「全国で勝つためには『あの形しかない』」

小松には、能代工が長年築き上げてきたものを一新させようなどという考えはなかった。

多くが小野に指導を受けたくて入学してきた選手で、彼らが自分に不満を抱いていたとしても、小松はそれを承知で意見交換を図った。言葉のアプローチから気を配り、「絶対に勝とう」ではなく「捲土重来したら面白いよね」と、やんわりと選手を鼓舞する。

高校バスケ、あの能代工は今。校名変更、外様監督への反発、新部員3人…現監督の奮闘「私は何を言われてもいい。でも」_4

全ては能代科学技術を魅力あるチームにするため。再び「ここでバスケがしたい」と、入学者を増やしていくためである。

その環境づくりの大きな一歩目として、かつて能代工が王者としての威厳を示せていたプレースタイルを復活させたいのだと、小松は意欲を出す。

オールコートでプレスを仕掛け、ゾーンディフェンスからボールを奪い、速攻で得点を決める。ルーズボールに泥臭く食らいつき、コートに立つ5人が試合終了まで走り切るバスケットボール。それは、校名が変わろうともこのチームの自己証明になると考えている。

「原点に返る、じゃないですけど、私たちが知っている能代工業の良さを目指したい。全国で勝つためには『あの形しかない』と、シンプルに突き詰めていきたいんです」