漫画家で唯一イラストが成立してるのは
江口さんだけなんだよ(本宮)
江口 子ども心に本宮漫画が痛快だったんです。それまでの大人の漫画家を全部蹴散らすみたいな感じに映って、すごいハマって。
僕はそれまでちばてつやさんが大好きで、そういう絵を描いてたんですけど、一瞬本宮さんに浸食されて3ページの番長ものを描いたんです。タイトルは『東海の甘えん坊』っていうんですけど(笑)。すごい甘えん坊が本宮さん風のキャラ、っていうのを描いてたんです。
本宮さんの絵柄ってそれほどすごい引力があるんですね。
そして本宮作品はクラスの不良全員が読んでましたからね。本宮漫画を読むと、ヤクザ映画を観たあとに役柄になりきってしまうような、そんな感じがあって。
本宮さんは『男一匹ガキ大将』(1968〜1973年)とか『男樹』(1979〜1980年)もそうですけど、初期の頃からすでに、例えば株とか経済とかそういう社会性も作品の中に忍ばせてましたよね。
本宮 あれは背伸びだね(笑)。
江口 今でもそういうテーマ性の作品を描いていらっしゃるじゃないですか。経済ものとか。そういう意味でも先見の明というか。
去年、Netflixで韓国ドラマの『梨泰院クラス』にハマったんです。料理人がのし上がっていく話なんですけど、その主人公が普通に株とか投資をちゃんとやってるんですよ。そういうの、あの時代の「少年ジャンプ」で、すでに本宮さんはやってたなと思って。
本宮 俺がやってきたのは、自分が5のレベルだとしたら、ひたすら7、8あたりに見せるというハッタリで。だから嘘ばっかついてきてるんだよ。そんな感じですよ。
漫画を描きながら、漫画にどっぷり浸かってないまま来てるから、結構漫画を客観的に眺められてるなっていうのはあるんです。でもね、そういう視点だと漫画家はイラスト描けないんですよ。で、イラストレーターもそうそう漫画を描けない。
漫画家で唯一イラストが成立してるのは江口さんだけなんだよ。
江口 漫画描いてないですけど(笑)。だから両立してないっていう(笑)。
本宮 漫画は音楽と同じような流れがあって、最初の一コマからそのまま流れるように描くのが一番いいの。その中でイラストを描きたがると、いったんそこで止まるんですよ。そうすると漫画の流れそのものも止まる。
若い子たちを見てると絵を描きたがってるから、漫画の流れを無視して、ドカッとイラストを描きたがる。
江口 耳が痛いです(笑)。漫画の巧さとイラストの巧さって全然違うんで、あまり漫画のコマの中にイラストのような絵が入ると、ストーリーへ視線誘導させたいのにそこで目が止まっちゃうんですよね。だから漫画としてはあんまり絵が巧すぎてもよくない。
でも、じゃあ下手でもいいのかってことじゃなくて、漫画演出の巧さっていうのはまた別なんですよね。仮に絵は稚拙だとしても演出の巧さですごく面白い漫画はいっぱいあるし、そこが特に日本の漫画の力かなとも思っているんです。