「記念日自殺」という病い
これは「記念日自殺」とも呼ばれていて、誕生日、敬老の日などにも自殺リスクが高まると言われている。構造は同じで、記念日にこそ、彼らは孤独を膨らませるからだ。
私が取材した精神科医によれば、年末に自殺未遂をした高齢者がこんなことを言っていたそうだ。
「毎年、年末になると、今年こそ死のうと思っていました。正月にいつもと同じものを食べてテレビを見ていると、このままもう1年生きていたって仕方がないって思うんです。今年は秋から体調を崩していて、その気持ちがすごく高まっていて、つい(自殺未遂を)やってしまいました」
私が取材したケースでも、老老介護の疲労による心中が年末に起きたことがあった。妻が夫の介護に疲れ果て、彼を殺して自分も死のうとして失敗したのである。
そう考えてみると、記念日自殺は独居老人だけの問題ではなく、社会の隅で苦しんでいる高齢者全般に通じることだといえるかもしれない。
こうした悲劇を生まないためにも、私たちは「記念日」が持つ裏の意味を念頭に入れておくべきだろう。
今年も年末が近づいてきた。
誰もが何かしらの形で高齢者とかかわりがあるはずだ。記念日にふと思い出し、連絡を取ってみるだけで、その人の孤独はずいぶん和らぐのではないだろうか。
そうした優しさと意識を、一人ひとりが持ちたい。
取材・文/石井光太