録音30時間越えの大作も人気
さらにオーディオブックならでは、という読み方(聴き方)もある。同社広報の篠田友里さんがお勧めするのが「リベンジ読書」だ。
「むかし読み始めたものの、内容の難しさやボリュームに挫折した本を、オーディオブックで再チャレンジしようという読み方です」
この場合は録音時間が長いものに人気があり、ビジネス本だと『21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考』(ユヴァル・ノア・ハラリ著、河出書房新社、録音時間19時間45分25秒)、小説だと上中下巻で30時間越えの『罪と罰』(ドストエフスキー著、岩波書店)もよく聴かれているという。
内容が難しい本を音で聴いてわかるのかと思うが、「むしろ難しい専門用語やカタカナのら列にとらわれることなく、さっさと内容が進んでいくので要点が頭に入りやすい」(篠田さん)という。
朗読の再生スピードの使い方にもコツがある。同社では等倍速から4倍速まで0.1倍刻みで選択できる。
「小説など声優が朗読しているのは、間の取り方など味があるので等倍速で、ビジネス本のように書かれている情報を取るだけのものは1.2倍とか1.3倍、すでに読んだ本の『おさらい読書』として、4倍速という読み方をするユーザーもいます」(羽賀さん)
ちなみに私が初めて選んだオーディオブックは、中学・高校生のところに読んだ梶井基次郎の『檸檬』。たまたまなのだが、羽賀さんによると中高年のユーザーで、最初に『檸檬』を選ぶ人はけっこういるそうだ。イヤホンを耳に入れてソファに横になり、朗読に耳を傾ける。子どものころの陰鬱な印象とは異なり、文章がリズミカルで現代的に感じたのが意外だった。そして子どもにはピンとこなかった檸檬をそっと書店に置くラスト、初老の今はしみじみとその想いが伝わってくる。歳を重ねて初めてわかる「再会の読書」というべきだろうか。
取材・文/神田憲行