これぞベストパートナー! 『CITY HUNTER −盗まれたXYZ−』

『ベルばら』『エリザベート』…原作とのマッチングの妙が生んだ宝塚の名作_d

北条司による人気コミックを原作に、オリジナルのエピソードを交えて構成された『CITY HUNTER −盗まれたXYZ−』は、2021年に雪組新トップコンビ彩風咲奈(あやかぜ・さきな)と朝月希和(あさづき・きわ)の大劇場お披露目公演として上演された。演出を手掛けたのは齋藤吉正。

本作の主人公は、裏社会の凄腕スイーパー(始末屋)「シティーハンター」こと冴羽獠。美女にめっぽう弱く、仕事を引き受けるのは美女絡みか、依頼人の想いに心が震えたときのみ。平成元年の新宿を舞台に、獠と彼のパートナーである槇村香を中心として、彼らを取り巻く個性的な登場人物たちが繰り広げるハードボイルド・コメディだ。愛や友情を描いた心温まるヒューマンドラマでもあり、宝塚にピッタリの題材である。

ただし、原作での獠が美女に性的興奮をおぼえ「もっこり」する点は、宝塚のコードに引っ掛かるため「ハッスル」という表現に変更されている。

オリジナル曲をはじめ、TM NETWORKによるアニメ版のテーマソング『Get Wild』や『STILL LOVE HER(失われた風景)』が絶妙なところで歌われるほか、各登場人物にきちんとスポットが当たっており、原作ファンには堪らない演出となっている。各登場人物が活躍している様は、原作未読のヅカファンにとってはスターへの当て書きのように感じられ、どの客層も楽しめる出来栄えだ。

また興味深いのは、国際犯罪組織に殺されてしまった獠の元相棒で、香の兄の槇村秀幸が幽霊として登場し、物語の狂言回しを担うと共に、獠と香に想いを託す存在として描かれている点だ。非現実的な設定であるが、宝塚の舞台だと違和感なく成立する。

宝塚版の見所としてもう一つ。獠と香の関係が、二人を演じる雪組トップコンビと重なる点だ。作中にある「CITY HUNTERってのは一人じゃないんだ。俺たち二人でCITY HUNTERなんだよ!」という獠と香の唯一無二の間柄を示す台詞は、同じ方向を見て共に走る彩風と朝月のパートナーシップにそのまま当てはまる。本作は二人のお披露目公演だからこそ、その言葉がより強く観客の胸に響くのだ。

宝塚と題材が化学反応を起こすとき、今までにない広がりと感動が生まれる。こうした瞬間を目撃し、体感できることもまた宝塚観劇の醍醐味の一つなのである。

文/石坂安希 編集/嵯峨景子

『歌劇とレビューで読み解く 美しき宝塚の世界』(立東舎)
石坂 安希
『ベルばら』『エリザベート』…原作とのマッチングの妙が生んだ宝塚の名作_e
2022/2/19
¥1,980(税込)
単行本 ‏ : ‎ 272ページ
ISBN:484563712X(ISBN-10 )
978-4845637126(ISBN-13)
《ベルサイユのばら》《エリザベート》から《ルパン三世》まで、歴代の名作も数多く登場!
100年以上の歴史を持ち、兵庫県の宝塚市と東京の日比谷に専用劇場を所有する宝塚歌劇。
本書では、その目玉のひとつである「レビュー」をキーワードに、宝塚歌劇を様々な角度から深く掘り下げ、その魅力の真髄に迫っていきます。
劇団の歴史や美学、演出の特徴などを知ることで、観劇のきっかけとなり、また観る前の予習としても使える1冊。
巻末には「宝塚名作紹介」として、歴代の傑作をじっくり取り上げています。
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