ラブストーリーとして再構成された『エリザベート −愛と死の輪舞(ロンド)−』

『ベルばら』『エリザベート』…原作とのマッチングの妙が生んだ宝塚の名作_c
画像提供/石坂安希

1996年の初演以来、『ベルばら』と並び宝塚の代表作となった『エリザベート−愛と死の輪舞−』では、原作となったウィーン・ミュージカルから大きな設定変更がみられる。

ウィーン版では、閉鎖的な宮廷生活の中で、自分らしく自由に生きようとしたハプスブルク帝国のエリザベート皇后の生涯と、帝国が滅亡へと向かっていく様子が描かれている。また、エリザベートが孤独に苛まれたときには、彼女自身の分身であるトートが側に現れるのだが、このトートとはドイツ語で「死」を意味しており、男優によって演じられる。

一方、男役であるトップスターを主役に据える宝塚では、主役をトートに変更するほか、彼をエリザベートの分身ではなく、彼女に恋する「黄泉の帝王」とし、二人のラブストーリーに書き換えた。また、演出家の小池修一郎はトートのエリザベートへの恋心を綴った楽曲をウィーン版の作曲家に依頼した。曲名は宝塚版の副題にもなっている「愛と死の輪舞(ロンド)」である。

その歌詞には、「お前の生命奪う替わり 生きたお前に愛されたいんだ」という矛盾をはらんだ一節がある。「死」であるトートが、生きているエリザベートから愛を受け取るのは不可能だ。エリザベートがトートを愛せば、彼女は死んでしまうからである。エリザベートが心の底から死を受け入れることを望み、苦悩しているトートの心情が宝塚版では描かれている。

トートの想いが成就するのは、エリザベートが暗殺される瞬間だ。死を受け入れ、トートと結ばれたエリザベート自身も、魂の自由と安らぎを手に入れ、幸せになったと解釈できる結末になっている。それは相反する二人の関係が、円環のごとく終わることのない永遠の愛へと昇華したことを示しており、副題をも体現している。こうしたカタルシスが感じられる演出が、宝塚の深みとなっているのである。