独自の演技法で上演された『ベルサイユのばら』

『ベルばら』『エリザベート』…原作とのマッチングの妙が生んだ宝塚の名作_b
画像提供/石坂安希

『ベルサイユのばら』は、フランス革命を背景に、王妃マリー・アントワネットと、女性でありながら軍人として生きたオスカルの人生を軸に展開していく、池田理代子が描いた少女漫画の大傑作である。それが、演出家・植田紳爾(うえだしんじ)によって1974年に宝塚で初演され、大ブームを巻き起こし、劇団を代表する演目として定着した。だが当初は、少女漫画の舞台化に対し内外から批判の声が相次ぎ、宝塚にとって本作の舞台化は大きな挑戦だった。

原作の世界観を舞台上で再現するために、メイクや衣装に頼るだけでなく、独自の演技法が編み出された。指導に当たったのは、時代劇スターの長谷川一夫。長谷川は客席から見て美しく見えるポーズの取り方をはじめ、少女漫画特有の目の中に星が飛んでいるように見せるための目線の配り方や照明の当たり方などを演者に伝授した。様式美の極みともいえる演技の型によって、漫画から登場人物が抜け出てきたような究極の舞台が完成し、大好評を博したのだった。

また、宝塚版の『ベルばら』には様々なバージョンがあり、登場人物に合わせて独自の演出がなされている。例えば2013年に月組で上演された「オスカルとアンドレ編」では、戦死したオスカルを、アンドレが天国から迎えに来て、二人が乗った馬車が客席の上空を飛ぶというラストになっている。宝塚の舞台だからこそできるスペクタクルでロマンティックな演出に客席は大いに沸いた。

一方、アントワネットを主軸にしたバージョンでは、フェルゼンがアントワネットを亡命させようと彼女の牢獄までやってくるという原作や史実にはない設定がみられる。アントワネットは彼の助けを拒み、女王としての責任を取るため、自らの意思で断頭台へと上っていく。その神々しい姿や、崇高な死を印象付けるドラマティックな演出は、観客の涙を誘わずにはいられない。