「資産」としてのスニーカー

スニーカーは最も身近で手ごろな「資産」になった。それはまるで、17世紀に起きたオランダのチューリップ・バブル(記録に残された史上初の投機バブル)そのものだ。チューリップ・バブルは、オランダ独立戦争が収束に向かい、経済が活発化してきたときに、珍しい花びらを持つチューリップの球根が高値で取引されるようになったバブルである。

転売屋と化した商人たちが値上がりを見込んで球根を大量に仕入れるようになり、一般人も巻き込んで投機熱が高まっていった。人々は土地や宝石、家具などと引き換えにしても球根を手に入れようとしたという。球根一つで家が建ったという話もあるほどだ。

現代でも、「メルカリ」をはじめとするフリマアプリや、プロの鑑定士による鑑定証明付きのスニーカー売買サービスが続々と立ち上がり、誰でも自由に簡単に、スニーカーを個人間で〝買って売る〟、取引市場が確立した。インターネットで調べれば、どのスニーカーが高くなるかの予想はつく。

ちょっとした背取りの知識さえあれば、誰でも転売に参戦できる〝1億総転売屋時代〟の幕開けである。スニーカーはできるだけ定価で買って、それを高く売る時代。並行輸入バイヤーか国内バイヤーかの違いはあれど、僕に言わせれば、〝1億総チャプター化〟とも言える。

2015年前後から今に続く、世の中はまさに、「スニーカーバブル」へと突入した。ナイキが発売日の間隔を極端に狭め、次から次へと発売することで、熱狂のボルテージを上げていった。以前は文字通り、希少価値が高いという意味で使われていた「レアスニーカー」は、熱狂する・興奮するという意味のスラングである〝ハイプ〟を用いて、「ハイプスニーカー」と呼ばれるようになり、二次市場で高いか安いかが人気のバロメーターを表す要素となっていった。

これがバブルになるのか、この先も続く傾向になるのか、正直なところ僕にも分からない。ただ、もしこの熱狂が続いていくことがあれば、その先には、スニーカーが「貨幣」になる未来が来るかもしれない。