新しい本屋経営のカタチ
実は、HIBIYA COTTAGEにいる頃から冗談半分で「3人で事務所を借りようか」という話が出ていた。当時から、柏崎さんは勤める傍らデザイナーとして仕事を請け負い、當山さんは服のお直しや立体作品の制作もしていたためアトリエがほしいと言っていた。一方、花田さんも書評などの執筆依頼が増えたが、家では集中して書くことができないという悩みがあった。そんなときに急にHIBIYA COTTAGEの閉店が決まり、「みんなで冗談で言っていたこの話、もしかして……」と現実味を帯びたことが、蟹ブックスの発端だ。
「仲良し3人組だから一緒に本屋がやりたい、というスタートではなくて。まず、3人で事務所をつくる。そこで本屋をやりながらオフィスとしても使うといろんなことが解決するんじゃないかと自然に流れ着いたんです。私は今まで、企業で働くことで個人ではできないようなことをさせてもらって、大きな船を動かすことにやりがいを感じていました。だから小さい店を持つ気持ちはなかったんですよね。でも、タイミングも3人の考えもこんなにいい条件もそろっているのにやらないのはもったいないと思うようになりました」
店は3人での共同経営ではなく、花田さんが経営者として2人に業務委託をする形での運営。それぞれの仕事を尊重し、ギブアンドテイクの関係性を保つためだ。一緒に始められる仲間に恵まれたことが、何よりの決め手となった。
「柏崎は紙ものをつくるのが好きなので、そういう仕事をここで受けてできるというのはすごくいいと思ったと言ってくれて。例えば自分でZINEをつくりたいと思ったときにお願いできる人がいないと難しいこともありますよね。直接、顔を見ながら気軽に相談できるのは、ありそうでないサービスだと思いました。當山は、初めはアトリエとして作業スペースがあればいいと言っていたんですけど、せっかく古着屋の多い高円寺だし需要があると思ったので、私からお直しをここで受けたら?と伝えました」
オープンに先駆けて「うぶごえ」というクラウドファンディングで資金を募ると、予想をはるかに上回る489万円が集まった。「開始当日の夜には100万円を超えていたんです。熱いメッセージとともにご支援くださってジーンとしましたし、気が引き締まる思いでした」と振り返る。「うぶごえ」を選んだのは、偶然にもHIBIYA COTTAGEで一緒に働いた仲間がいたからだ。
「大変な時期に毎日一緒に仕事をしてサポートしてくれた仲間が、退職してベンチャー企業でクラファンのサービスを提供していると話していたことを思い出して。連絡を取ったら、彼もすごく応援してくれてこういう形で仕事を依頼してくれてうれしいと言ってくれました」