怪談とホラーは何が違うのか

――そう聞くと、時代を越えて怪談が愛されるわけが分かる気がします。

そうでしょう。なかには、不思議な体験をしたのに誰にも言えず、話すのをじっとガマンしている人もいるかもしれない。怪異を目撃した瞬間、「あれ、見えた?」「うん、私も見た」と語り合った経験がある人もいるでしょう。自分の体験が夢か現実かはっきりしない人もいるはずです。

私には「ショウゾウおじさん」という非常に優秀な伯父がいたそうです。戦死してしまったから、私は直接、会ったことはない。でも物心ついてから家族に「ショウゾウおじさん」は、酒もタバコも一切やらず、英語ができて、人助けをする立派な人だったと聞かされたものですよ。

そんな私が「ショウゾウおじさん」を身近に感じた出来事があったんです。

あれは、私が小学校に上がる前。母親とおばあちゃんと東京の恵比寿駅に出かけた私は、2人が目を離したスキに、駅のホームから転落してしまった。もう電車が到着するというときに、誰かが私を「ポーン」とホームに助け上げてくれた。誰が助けてくれたのか、母もおばあちゃんも周囲の人も見ていない。名乗り出る人もいなかった。

不思議な体験だったけど、私には、なぜか「ショウゾウおじさん」が助けてくれたと確信できた……。それもひとつの怪談なんじゃないかなって感じるんだ。

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――怪談はただ怖いだけではないんですね。

そこを勘違いしている人が大勢いるんですよ。少し前にゲストとして、テレビ番組の収録に呼ばれたんです。男の子のアイドルグループが私に怪談を聞かせてくれるという。

彼らは「顔が裂けて、血がドバッと出て、グッとうめき声が漏れて……」という話をした。「稲川さん、どうでしたか」と感想を求められたから私は言いましたよ。「あなたたちの話は怪談ではない。それは単に不気味なだけのホラーだよ」と。

――ホラーと怪談は具体的に何が違うのでしょう。

ホラーは人の気持ちや状況なんかおかまいなしに唐突な怪奇現象で人を驚かせる。怖いというよりも、ショックですよ。一方で、怪談の背景には日本人独特の繊細な感性がある。恨みや悲しみ、亡き人を追慕する気持ちを理解できるから、怪談に感情移入できる。

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