松山のチャンピオンズ・ディナーはお寿司?

さて、話は戻って松山選手の連覇の可能性なんだけど、彼はとにかく去年、マスターズに勝った時点で、メジャーで勝たなきゃっていう呪縛から解き放たれたと思うんです。2017年の全米プロで、本人も認めていたけど、本当にタイトルに近づいた。でも勝てなかった。そのときに勝つためには何が必要かと自分へ問いかけた。その答えは、やるべきことを全部やるということだった。メンタルもフィジカルも何もかもです。しかし、それでもう万全だと思ってもまだ勝てない。勝つには何が足りないんだとずっと思っていて、悶々としていて、ようやく去年心の幅が広くなった。人に感謝したり、許せたりとかね。

だから去年のマスターズではすごく気持ちよくコースを回れるようになって、それが最後までうまく続いたんだと思います。ところが、メジャーに勝たなければならないという呪縛から解放されたとして、マスターズのディフェンディングチャンピオンとなると、ちょっと話が変わってきます。チャンピオンズ・ディナーとか、やらなきゃならない役割がけっこうあるんですよ。

チャンピオンズ・ディナーとは、もとはマスタークラブといって、ベン・ホーガン(マスターズ2回優勝)がつくったんです。マスターズで優勝して大会関係者にはいろいろよくしてもらったから、歴代の優勝者が集まって感謝の意を表そうということで、オーガスタ・ナショナルGCのチェアマンやマスターズ委員長を招待して食事をする、そういう会。だから、費用はすべてディフェンディングチャンピオン持ち、つまり今年は松山選手の負担です。

2021年のチャンピオンズ・ディナーは、ダスティン・ジョンソンがホストだったけど、ウッズが交通事故で出席できなくなった。そのときにウッズがダスティンに「僕の分のディナー代を払わずに済んでよかったね」なんてツイートしてたんですよ。まぁ、交通事故でけっこう心配されていたから、そこに対するメッセージでもあったんでしょうけど、費用はそこそこかかるみたいですよ。

最多勝王者でも「足が震える」舞台、マスターズ。松山英樹の連覇のカベはプレー以外にもある_2
オーガスタ・ナショナルGCのクラブハウス。ここのレストランでチャンピオンズ・ディナーが開催される

場所はクラブハウスのレストランで、出席者はみんなグリーンジャケットを着ていて壮観です。松山選手は今年、ホストだからメニューを決めなきゃいけないし、スピーチもしなきゃいけない。記者会見で本人は「緊張します」なんて言っていたけど、本当にそうでしょうね。

「お寿司が出るのでは?」という噂だけど、メニューは内緒だそうで。基本的に料理はオーガスタのレストランで作ります。まぁ、お寿司ってことになると、寿司職人は連れてこなきゃならないでしょうね。なんにせよ、オーガスタの料理は本当においしいらしいですよ。

ちょっと話はそれるけど、オーガスタのクラブハウスの地下には巨大なワインセラーがあって、そこにはもうとんでもない、貴重なワインがズラッと並んでいて、それはワイン好きなメンバーが勝手に集めて並べているものなんです。二千何年までは飲んじゃダメ、とか書いてあってね。

昔、知り合いがメンバーとラウンド後に、けっこうなヴィンテージのワインを飲んだのだそうです。知り合いが「このワイン、けっこう高いんじゃないの?」とメンバーに聞いたら「いいやタダだ」と。請求書にワインの金額が載ってない。そのワインを集めていたメンバーは亡くなっていて、その遺言が「私の集めたワインの請求書は私に送ること」となっていたと。いや、これ嘘かもしれないけど、こういうエピソードが飛び出してくるのがオーガスタらしいなと思うわけです。

連覇のプレッシャーこそ大きなカベ

そんなふうにコースのみならずクラブハウス、レストランまでがオーラをまとうマスターズ、そしてオーガスタ・ナショナルGC。今回、松山選手がディフェンディングチャンピオンでなければ、そこそこの成績は残せるはずなんです。それは、1回勝っている余裕というか強みというか。ただそれも考え方しだいで、負担になる場合も当然あるんですよね。やっぱりディフェンディングチャンピオンとしての立場を考えると、ここでこんなミスしたら恥ずかしいとか、いろいろ思うでしょうから。

とにかくマスターズのコースは常に選手に問いかけてくるわけです。お前どうするんだ、どう攻めるんだ、どう決断するんだって。そういうところを自分なりにどう処理するかっていうのが、今年の松山選手の大きな課題だろうと思います。なにしろ、最多の6回も優勝しているニクラウスでさえ、こう言っているんです。

「何回来てもマスターズの初日、1番ホールのティーショットは足が震える」。

(終わり)

第1回「憧れの祭典の始まり」はこちら
第2回「オーガスタ・ナショナルGCの魔力」はこちら
第3回「こだわり抜かれた演出」はこちら

取材・文/志沢 篤