信長が世界統一をめざす
一般的なマンガの主役はデフォルメして描かれたキャラクターであって、写実的なものではない。そのためマンガは「人間の欲望を全面的に肯定する表現」という特徴を持った作品が多い。しかも映画と違って、どんな巨大なスペクタクルでも、ペンで生み出すことができる。だから筆者などは「とんでもない大風呂敷こそマンガならでは」と感じるところがあるのだが、その意味で尊敬する作品が、本宮氏の『夢幻の如く』(1991)だ。
こちらの主人公は織田信長だ。「信長がもし、本能寺で亡くなっていなければ……」とは誰もが考える「歴史のイフ」だが、『夢幻の如く』では、なんと明智光秀の謀反を生き延びた信長がアジアを制し、ヨーロッパにまで攻め込むのである。
読む人をとんでもない想像力で遠い世界まで連れていってくれる。マンガファンとしては「ありがとうございます!」と、うれしくなってしまう。
「読む人の想像を、はるかに超える想像力」といえば、"本宮流三国志"『天地を喰らう』(1983)もスゴイ。「天に愛された人物」という言葉があるが、この作品は、まさに諸葛孔明と劉備玄徳が、天界に昇り竜王の娘たちと愛を交わすところからはじまるのだ。それを成した男は、どんな野望でもかなうという。
孔明が望んだものは「自然の法則を知る智力」。劉備の望みはどんな豪傑に対してもビクともしない肝っ玉。ところが、劉備の相手はすでに人間の男と契っていた。曹操孟徳だ。しかし劉備は呑邪鬼の肝を喰らい、天も地も喰らうほどの肝っ玉を手に入れた。
時代は乱世。「黄巾の乱」のただ中だが、黄巾賊の首領である張角の正体は魔界の王・幻鐘大王だった。世の乱れはついに森羅万象のバランスを崩し、すべての命運が劉備に託されることになる。