産むことは諦めても、育てることは諦めきれなかった

「『養子は考えてないの?』と。その時は『いやいや、そこまでする気はない。子どもができなければ、夫と2人の生活を考えるよ』と答えました。そのやりとりが頭に残っていたんでしょうね。不妊治療をこれで最後にしようと決意した日。結果がダメだったと分かった瞬間から、スマホで特別養子縁組について調べていたんです。その直前までは、2人の生活でいい、夫はパン屋、私は舞台の仕事を頑張ればいいと思っていたんですよ。でも違いました。産むことは諦めたけど、子どもを育てるってことは諦めきれなかったんです」

【私のウェルネスを探して】武内由紀子さんが不妊治療を経て「特別養子縁組制度」でふたりの子どもを迎えるまで_4

武内さんが子どもを育てたい、家族を持ちたいと思う理由。それは自身が育った環境や今置かれている状況が、そう思わせているかもしれないと振り返ります。

「私が13歳の時に親が離婚して、母の実家で暮らすようになりました。福岡に住んでいる姉も、3人の子どもがいて実はシングルマザーで。生まれ育った大阪に、もう実家がないんですよ。それがとてもさみしいなと思うんです。従兄弟には実家があって、帰省したら生まれ育った家に帰る。親戚のおばちゃんに『実家があっていいなあ』って言ったら、『あんたが作ったらええやん!』って言われたんです。『ああ! なるほどな』と思って。それで今住んでいるこの家が、実家になったら嬉しいなと思って。子どもが巣立った時に、帰ってくる家があるといいなと思ったんです」

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さらには、子どもがいない30年後の生活を想像した時。ちょうどまわりは孫ラッシュが続く中、「自分には子どもがいないし孫もいない。なぜあの時、そうしなかったんだろう」と後悔するだろうと思ったからだと言います。

特別養子縁組で親になるのにも年齢のリミットがある

特別養子縁組で子どもを迎えることについて、それぞれの親に報告しました。夫の両親は、「家族がいること、子どもがいることは人生の中で大切なことだと思うから」とすぐに賛成。しかし、武内さんの母や姉は、子育ての苦労を知っているからこそ「そこまでしなくてはいけない?」という気持ちを伝えたそう。しかし最終的には武内さん夫婦の決断を応援してくれたと言います。

そこから特別養子縁組制度をあっせんする民間団体を探し始めます。武内さんが見つけたのは、NPO法人が行う「赤ちゃん縁組」でした。半年から1年ほどかけて、育ての親になるための審査と登録を行い、養子として迎える赤ちゃんを待ちます。その時初めて知ったのが、親になる側にも目安の年齢があることでした。

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「0歳児を受け入れた時、成人するまでの年齢から逆算すると、親側の年齢も45歳以下が理想。体力的なことや経済的なことも考えると、子どもとの歳の差が40歳くらいがいいということでした。そもそも産むわけではないので、制限がないと思っていましたから。養子縁組と特別養子縁組、違いがあるのも初めて知りました」

養子縁組と特別養子縁組は、戸籍上の表記が異なります。養子縁組は、族柄が「養子(養女)」などと記載されますが、特別養子縁組では「長男(長女)」と記載されます。

不妊治療を45歳までするとして、そこから養子縁組を考えると、時すでに遅しという場合も。武内さんは、「私が通っているクリニックでは、養子縁組については一言も言われませんでした。どうするかはさておき、早めに知りたかったし、選択肢として知っておくことは必要だと思います」と振り返ります。

45歳で長男、47歳で長女を迎える

武内さんは45歳で登録、研修や待機期間を経て2018年に長男、2020年に長女を迎えます。特別養子縁組では基本子どもの性別は選べません。団体によって子どもの名付け方も異なり、実母が決めるケースや迎える側の親が決めるケースもあるそう。実母との関わり方も色々で、長男の時は実母に会ったそうですが、長女の時は会えなかったと言います。

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後半では、子育て真っ最中の武内さんの今、子どもたちにいつ事実を告知をするのか、武内さんが特別養子縁組制度について発信を続ける理由について聞きます。

武内由紀子さんの年表

1973年 大阪府に生まれる
13歳 両親が離婚し、母親と姉と、母の実家で暮らし始める
20歳 「大阪パフォーマンスドール」のオーディションに合格。リーダーを務める
22歳 ラップユニット「WEST END×YUKI」として「SO.YA.NA」をリリースして話題に
23歳 「大阪パフォーマンスドール」解散。タレント、女優活動へシフト
28歳 一般男性と結婚
29歳 舞台の仕事に没頭し始める
34歳 離婚
40歳 7歳年下のパン職人の男性と入籍、不妊治療を始める
45歳 特別養子縁組で長男を迎える
47歳 特別養子縁組で長女を迎える

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撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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