鎌倉大仏で祈る願いとは 

「日本に来て8年なんですが、まだ鎌倉に行ったことがない。もしかして、そんなミャンマー人は僕だけかもしれない」

と、池袋のミャンマー式カフェ「ZUU & HEIN Myanmar Tea House」のスタッフ、ポンミンモーさん(26)は嘆く。ずっと仕事で忙しく、いつかはと思いながらも足を運べないままだったという。

「でも、今度の誕生日には必ず」

それほどまでに、在日ミャンマー人の間で浸透し、もはや生活習慣のようになっている「鎌倉詣で」だが、

「お参りすると3回に1回は願いが叶う」

なんてウワサもあるそうだ。これは日本にいるミャンマー人だけでなく、ミャンマー国内でも同様だ。

「鎌倉の大仏に参拝すると、また日本に行ける」

まるでジンクスのように語られている。鎌倉みやげのミニ大仏は「いつか日本に行ける、幸運をもたらす」と縁起モノとしても人気になっているそうだ。

コロナ禍の前、入国制限がなかった頃はミャンマー人観光客も数多く訪れ、「東京よりも、富士山よりも、まず鎌倉」というほどだったとか。 

NHK大河『鎌倉殿の13人』の舞台である鎌倉が在日ミャンマー人の「聖地」になっていた_4
故郷が平和になってほしいという祈りを、大仏は叶えてくれるだろうか(写真提供:スー・ウィン・イーさん)

来日20年になるスー・ウィン・イーさんもやはり「年に3回は行く」ほどの鎌倉好き。

「なにかの記念日とか、困っていたり、辛いことがあったり、人生の中で特別なことがあるたびに行きます。日本の仏教とは少し違うけれど、故郷に帰ったような安心感があります」 

NHK大河『鎌倉殿の13人』の舞台である鎌倉が在日ミャンマー人の「聖地」になっていた_5
家族や友人と鎌倉を楽しむスー・ウィン・イーさん(中央、写真提供:ご本人)

そして平和への願い 

そしてまた鎌倉は、クーデターによって民主主義が奪われ、軍による弾圧が続く祖国を案じ、平和を祈る場所でもある。スーさんはそんな故郷を支援する活動をしている。街頭募金やデモ活動を行うほか、在日ミャンマー人、日本人とともにクラウドファンディングを立ち上げた。

「ミャンマーでは軍の空爆によって45万人の避難民が出ています。また軍に反対して解雇された公務員、軍の弾圧から逃れながら市民の治療にあたっている医療従事者もたくさんいます」

集められたお金は民間団体を通じてミャンマーに送り、これを軍に対抗して民主派が立てたNUG(挙国一致政府)やJMFA(日本ミャンマー友好協会)などが支援に使う予定だ。

スーさんだけでなく、鎌倉を訪れるミャンマー人は、たとえ誕生日のレジャーであっても、心のどこかで苦しむ故郷を案じている。そして、どうか平和になってほしいと大仏に祈るのだ。

大河ドラマ放映を機に、鎌倉を訪れる日本人も増えることだろう。もしかしたら熱心に祈るミャンマー人の姿を目にするかもしれない。そんなとき、彼らの「鎌倉愛」と、ミャンマーの現状について、少しでも思いを巡らせてくれればと思う。