鎌倉大仏は「魂がしっかり入っている」

しかしなぜ、鎌倉なのだろうか。日本にはいくつも名のある仏像、名刹があるが、「鎌倉の大仏はまずその表情がいいのだ」と多くのミャンマー人が言う。

「顔立ちがミャンマーの仏像に似ているんです」

タンダーリンさんも言う。日本のほかの大仏よりも、どこかミャンマーっぽいのだという。 

NHK大河『鎌倉殿の13人』の舞台である鎌倉が在日ミャンマー人の「聖地」になっていた_2
ミャンマー・バゴーの街にある仏像。鎌倉の大仏に似ているだろうか(写真撮影:室橋裕和)

「魂がしっかり入っている感じがするんですよね、ただの大きな像というだけではなく」

ミャンマー人が集住する東京・高田馬場で、レストラン「ノング・インレイ」を経営する山田泰正さん(73)はそう話す。ドラマ『孤独のグルメ』にも登場した名店で、少数民族・シャン民族のものを中心としたミャンマー料理を提供する。山田さん自身はラオスに生まれ、日本に帰化したシャン族だが、「リトル・ヤンゴン」とも呼ばれる街だけあって、お店にはたくさんのミャンマー人がやってくる。

「ミャンマーでは自宅にも仏像を置く習慣があるけれど、買ってきた仏像をただ置くだけじゃない。お坊さんを呼んで、儀式をして、魂を入れて、それから拝むんです」

そんな文化を持つ人々からすると、鎌倉の大仏からは同じようなソウルを感じるのだという。ミャンマーから知人が来ると、よく鎌倉を案内したという山田さんは、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も見ているそうだ。

「日本の歴史も勉強できるしね」

加えて、鎌倉は東京に近い。日本に暮らすミャンマー人はおよそ3万5000人だが、そのうち東京を中心に神奈川、千葉、埼玉の一都三県に1万5000人が集中している。鎌倉は行きやすいのだ。ついでに、江の島など周辺の観光地を巡ることもできる。

こんな理由で、鎌倉はいつしかミャンマー人の「聖地」となっていった。 

NHK大河『鎌倉殿の13人』の舞台である鎌倉が在日ミャンマー人の「聖地」になっていた_3
鎌倉大仏の前で記念写真を取る山田さん(写真提供:ご本人)