「グレーゾーン」の存在が、企業の最大のリスク

――櫻井さんは、2020年に「STeam Research & Consulting株式会社」を設立し、企業における反社リスクのリサーチやコンサルティングを行われています。ヤクザに取り込まれないためのノウハウは、企業からも求められていますか。

そうですね。いまや「反社リスク」は、企業の存亡を左右する問題になりました。実際2021年には、ヤクザもんとの交際を公表された企業が、暴排条例の措置対象になって倒産する事件が起こっています。そうなる前に反社リスクを洗い出して、ヤクザもんから企業を守るのが、この会社の役割です。

――具体的に、反社リスクにはどのようなケースがあるんでしょうか。

実際に扱った案件を紹介します。ある企業の社長が接待で、とあるクラブを毎月のように使っていた。その経費申請を不審に思った経理部の方が、ウチに依頼をくれたんです。「このクラブ、使用して大丈夫ですかね…」と。

それでいろいろと調べてみたら、クラブのママは某指定暴力団の組長の情婦だと判明しました。店の場所も指定暴力団のシマウチ(縄張り)です。その企業の社長は知らぬ間に、あやうくヤクザもんの関係者とつながりができてしまうところでした。

最近の反社リスクは非常に複雑です。今どき、ヤクザもんがそのまま近寄ってくることはほぼありません。まずはヤクザもんと繋がっているグレーゾーンの人間が近付いてきて、一般企業とズブズブになる。そのあとに「知り合いを紹介します」といって、ヤクザもんが登場してくるんです。そのときには、交渉を断りたくても断れないんですよ。

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――「黒」ではなく「グレー」にも注意しなければいけないんですね。グレーゾーンの人物を見極めるポイントはありますか。

見極めるなんて無理ですよ。だって、グレーゾーンは見た目や職業では判別できません。「え、この人が?」という、一見カタギにしか見えない人間がヤクザもんと親密だったりする。できることといえば「隣にグレーゾーンがいるかもしれない」という危機感を持って生活することくらいでしょうか。

――もし不審な人物が近寄ってきた場合、企業はどうすればよいのでしょう。

そのときは弊社にご相談いただければ(笑)。でもこれは冗談ではなくて、ウチの人脈と情報網は大手のリサーチ会社の比べものにならないほど精緻だと自負しています。

ヤクザもんは社会的地位の高い人物を常に付け狙っています。そこで弱みを握られたらアウトです。不審だと思った相手のことは逐一調べるクセをつけたほうがいいと思いますね。


取材・文/島袋龍太 撮影/塩川雄也

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