「ヤクザに出されたケーキを食べていいのか」問題

――国会議員や上場企業の経営者などのスキャンダルのなかには、利害関係者との距離の取り方を誤ったがために、足をすくわれたものも多い印象です。櫻井さんのヤクザとの接し方は、エグゼクティブ層にも参考になるような気がします。

スキャンダルを起こしてしまった方たちは、自らの立場を自覚していなかったのかもしれません。私の場合でいうなら「こっちは刑事、向こうはホシ」という関係性は絶対に崩しちゃダメなんです。しっかりと一線を引いて、立場を自覚する。それができていないから、金を積まれたときに受け取ってしまうんですよ。

――現職中にヤクザが金銭を渡してくるようなことはありましたか。

そんなの日常茶飯事でしたよ。例えばね、パイ(不起訴)になったホシが、釈放後に署を訪ねてきたんです。それで「お世話になりました」と言って紙袋を手渡してくるので、開けてみたら、紙袋いっぱいのビール券が入っていました。

――紙袋いっぱい…。一応、現金ではなかったんですね。

そこは微妙に配慮をしたんでしょう(笑)。とはいえ紙袋いっぱいですから、金額にすればかなりのものです。当然「バカヤロウ! 受け取れるか!」と突き返しました。

――相手は食い下がりませんでしたか。

「気持ちだから…」と言ってきましたけどね。とはいっても、ビール券は明らかに一線を超えています。だから、ヤクザもんを含め利害関係者と付き合うときには「これはいい、これはダメ」という限度をしっかり見極めなきゃいけない。

元マル暴刑事が明かす。ヤクザに足をすくわれないための上手な対処の仕方_2

――「一線がどこにあるのか」を見極めるがポイントだと。

そうです。例えば、マル暴志望の若手警察官を面接するときに、いつもこういう質問をしていました。「ヤクザもんの事務所に行って、お茶を出されたら飲むか?」と。この質問には大抵が「お茶は飲みます」と答えます。次に「一緒に寿司屋に行って、どんちゃん騒ぎするか?」と聞きます。これも大抵は「寿司には行きません」と返ってきます。

それで、その次に「じゃあ、ケーキを出されたら食べるか?」と聞くんです。

――お茶はOK、寿司はNG、じゃあ、ケーキはどうだと。難しいところですね。

あなたはどう思いますか?

――私は食べないほうがよいのかなと。

そう答えるマル暴志望者は多かったですね。でもね、ケーキは食べていい場合もあるんですよ。無理に断ったために相手に警戒され、拒絶されるくらいなら、ケーキくらい食べたっていんです。それで相手がつけ込もうとしてくるなら、ケーキを10個でも20個でも事務所に送り返せばいい。

大切なのは、堂々としていることです。堂々としていれば、ヤクザもんはつけ込んでこないし、取り込まれることもありません。そもそも、ケーキぐらいで難癖を付けてくるようなやつとは付き合わない方がいい。若いマル暴志望者には、そう教えていました。

――相手との関係性を踏まえて判断しろと。

そうです。あとは断るにしても、上手い断り方を覚えろとも教えていました。「甘いものは苦手なんだよ」「血糖値が高くて医者に止められているんだよ」など、相手を逆なでしない断り方はいくらでもあります。利害関係者と適切な距離を保つには、そういう事を荒立てない言い回しを覚えておくのも大切でしょうね。