――かつての少女小説にみられた多様性が後退し、刊行される作品が「姫嫁もの」一辺倒になっていた時期は、正直に申し上げて読み手としてかなり閉塞感を感じていました。ですがこうした閉塞感は読者だけのものではなく、作者側にも葛藤があったのですね。
もともと少女小説というジャンルはいろいろな暗黙のルールに縛られ、内にこもりがちな世界でした。2010年以降その傾向がどんどん加速していって、ジャンル自体が自縄自縛に陥っていたのではないかと思います。書き手のひとりとして、私自身もそのような空気を肌で感じ、息苦しさを感じていました。これはだめだろうな、あれもだめだろうな、と周りに言われる前に自分の手で作品の可能性を狭めてしまい、結局はおなじようなものをおなじように生産していくしかなくなって、「こういうものを書きたい」という情熱が減退していましたね。
「後宮史華伝」シリーズをオレンジ文庫でつづけさせていただけることになり、少女向け小説時代に悩まされていた閉塞感から解放され、いまはのびのびと書くことができています。少女小説自体を否定するわけではありませんが――少女小説でなければ書けないものもあると思います――私が書きたかった後宮を舞台にした物語は、少女向けの枠組みのなかにはおさまらなかったんです。
もっとも、ライト文芸というジャンルにまったく枠がないかといえばちがいますね。作品を縛る枠はしっかり存在しますが、それは少女向けとくらべてはるかにひろいので、現在の環境のほうが心地よいですね。
――今回のインタビューをきっかけに、後宮の世界や、はるおかさんの小説に興味をもつ人が多いはずです。作品のこんなところに注目してほしいなど、読者へのメッセージをお願いします。
今年でデビューから12年目になります。いろんな作品を書いてきましたが、後宮ものを書いたことのほうが多いんじゃないかと思います。何度も後宮ものを書いていたらいい加減に飽きるだろうと思われるかもしれませんが、自分でも驚くほど飽きていません。
後宮という狭い舞台、出てくる人物の役柄はほぼ決まっていて、起こる事件も皇位継承問題や寵愛争いなどに関連したものがほとんどで、後宮の枠組みからかけ離れた奇想天外な展開になるわけではありません。それでも役者(キャラクターのことを私はよくそう呼びます)が替われば、くりひろげられるドラマにも変化が出ます。役者の生い立ちが、移ろう心模様が、悲喜こもごもの人生が、後宮を多種多様な色彩で染めていくのです。
後宮の世界が極彩色なのは、建物にほどこされた金銀の装飾のおかげでもなければ、絢爛豪華な衣装や高価なインテリアのおかげでもありません。そこで暮らす人びとが百人百様の生きざまを見せてくれるから、後宮は万華鏡のような煌めきを放つのです。入れ替わり立ち替わり登場する役者たちはほんのひとときしかスポットライトを浴びることができませんが、彼らのはかない命にこそ〝後宮〟のすべてが詰まっています。ドラマを演じる役者がいなければ、その場所は単なる空っぽの箱にすぎないのですから。
閉鎖的でありながら奥深く、類型的でありながら起伏に富んだ、美しいものと醜いものが混ざり合って錦を織りなす舞台、後宮。彼の――あるいは彼女の――多彩な表情を一緒に楽しんでいただけたら、後宮に魅了されてやまない人間のひとりとして、たいへんうれしく思います。