教科書への政治介入とヒットの裏側で
2021年4月、学術的根拠にも依らない一方的な閣議決定によって、教科書の中の歴史用語である「従軍慰安婦」と朝鮮半島からの「強制連行」を用いるのは不適切だとされました。
検定合格後の教科書記述をも書き換えるよう文科省が、教科書会社を対象に説明会を開いて訂正申請の手続きへと促す――そんな前代未聞の事態を迎えたとき、職員たちは内心「余計なことしやがったせいで業務がさらに多忙になったじゃないか」と思う人もいたでしょう。
政治圧力に公務員たちも追い込まれていると言えるのです。「教科書検定は忖度の世界」と出版編集者は語っています。
文科省だけでなく内閣府の職員にサイン会で声をかけられたときはさらに驚愕しました。「批判的思考が弱まっている中で非常に良かった」との感想をいただきました。
これには、なにか夢を見ているような気分でした。というのも映画が完成する直前、ある教育関係者はこう心配していたのです。「この映画、学校の職員室で話題にもできないんじゃないかな」と。
東京都内の劇場のブッキングが非常に難航していたときだったので、観客が誰もいないガランとした劇場で舞台挨拶をしている自分の姿を悪夢のように思い描いていたのです。
しかし、その予想は外れました。爆発的に話題になって公開からわずか1カ月で来場者数が2万人を超えました。ドキュメンタリーとしては大ヒットだそうです。地味でカタルシスも正解も得られない映画なのに一体なぜだろう……。
本作が歴史教科書における戦争加害の記述について、子どもたちにどう伝えてゆくべきかをテーマの柱にしていたことが大きかったように思います。2月24日、ロシア政府軍がウクライナに侵略戦争を起こしたことで戦争が身近に感じられ、国家権力の歴史改ざんが語られるようになったことも注目された理由かもしれません。