創作も選ばない
人間がやるよりもAIの方が速く、正確に処理できる──そう判断される場面では、実際に置き換えが進んできました。AIの話題ではよく、「AIにはAIの得意なことを、人には人にしかできないことを」といった言説が聞かれます。
ですが実際には、「人にしかできない」と思われていた領域にまで、AIの活用が広がり始めています。その象徴の一つが、文化や芸術といった創作の分野です。
たとえば、小説については、2024年に芥川賞を受賞した九段理江さんの『東京都同情塔』は「AI小説」と呼ばれ、話題になりました。ただ九段さんがこの小説でAIが作った文章を利用したのは、登場人物がAIに問いかけをしてAIが答える部分だけで、実質的にはAIが書いた小説ではありませんし、テーマにもなっていません。受賞後には、「AIが書いた小説」と誤解されたことに戸惑った様子もうかがえました。
興味深いのが、同時に『八月の御所グラウンド』で直木賞を受賞した万城目学さんが、「実は自分もAIを頼っていた」と明かしていたことです*1。
万城目さんは改稿作業中の深夜、編集者に相談できないため、「大学生と社会人になったカップルがすれ違う理由」についてChatGPTに問いかけたそうです。すると、通常なら対話を重ねて30分以上かけて整理する内容を、わずか一分で整理してくれたといいます。こうした創作支援としてのAI活用について、朝井リョウさんなど他の人気作家も以前から前向きなコメントを寄せています*2。
そもそもエンターテインメント業界では、ハリウッド映画の脚本づくりにAIが活用されることがよく知られています。
たとえば、「舞台は地方都市。はじめに殺人事件が起きて、疑わしい人物があらわれ、その人物の疑わしさが次第に明かされていく、ただ物語の大詰めでその人物が犯人ではないと判明し、実は冒頭から登場していた誰からも疑いをかけられないような人物が犯人だった」というようなプロットを入力すれば、AIはあっという間に物語を作ってしまいます。
こうして見ていくと、創作の現場でも、「選ぶ」ことは時間や労力を伴う非効率な行動とされ、AIに任せる動きが着実に広がってきているように思います。それは事務作業のような機能的な分野にとどまらず、「人にしかできないだろう」と思われていた営みにまで、静かに入り込んでいるのです。












