みんな、死ぬのが怖い

しかしいま、ビートたけしに最大の危機が訪れている。老いらくの恋、殿ご乱心だ。

森社長を攻撃し出した頃は手遅れだった。あれほど面倒見が良かった親分が、軍団に対して一方的に親離れを宣言。その軍団もバラバラになった。自分の事務所を辞め、長年の夫人と離婚し、子と孫と別れた。

「男が背負った重さが、そのまま男の重さになる」と思っている僕からすると、余剰身内を斬り捨てた真意がわからない。金を貸しても誰ひとり返済を求めずに許してきた人が。「もうオイラ勃たないから」「あの人(噂になっているビジネスパートナー)は凄い人なんだよ」。

それがいつの間にか「兄貴とか姉ちゃんにさんざん怒られまして」と結婚報告。現夫人は新しいミューズか。心の間隙を突かれたのか。たけしに何が起こったのか。今なお信じられない思いがする。

晩節を汚しているのはたけしだけではない。一本筋が通った生き方を実践してきた憧れの男たちは、どうして人生の最期に来て自らの名誉を失墜させるのか。

もったいぶらずに結論を言います。みんな、死ぬのが怖いのだ。

とはいえ、30年間連載が続いている週刊ポストの「21世紀毒談」は何人も寄せ付けない切れ味だし、五輪批判も最高に痛烈だった。文筆業も精力的。東宝スタジオで新作を撮影中と聞く。玉座はしばらく安泰だ。

近年は、書籍を精力的に刊行している
近年は、書籍を精力的に刊行している
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たけしは既成のたけしを脱ぎ捨て、最終進化の段階に入ったと信じたい。ビートたけしから生き様を含めて多くのものを与えられた我々は、王の往生際を見届ける義務がある。その骨を拾い、語り継ぐ責務がある。そしてその日は思っているほど遠くない。

追記:たけしさん、『Broken Rage』観ました。今までお疲れ様でした。ゆっくりお休みください。

#3に続く

文/樋口毅宏

なぜ本を読むのか、なぜ映画を観るのか、なぜ音楽を聴くのか ――100年後、カルチャーの参考資料になる本
樋口毅宏
なぜ本を読むのか、なぜ映画を観るのか、なぜ音楽を聴くのか ――100年後、カルチャーの参考資料になる本
2026/5/28
2,200円(税込)
288ページ
ISBN: 978-4911632024
発売: POST

ブルーハーツ、山下達郎、長渕剛、エレファントカシマシから、北野武、とんねるず、松本人志、村上春樹まで、日本のカルチャーを「サブカルの語り部」樋口毅宏が忖度ぬきで書き尽くした一冊!
小山田圭吾、阿川佐和子、小西康陽との対談も収録。
表紙は江口寿史の描き下ろし!


『さらば雑司ヶ谷』『中野正彦の昭和92年』などの小説ででテロとバイオレンスを描き、
『凡夫 寺島知裕 BUBKAを作った男』ではノンフィクションに挑み、
そして『タモリ論』『さよなら小沢健二』でカルチャーへの造詣の深さを知らしめた
作家・樋口毅宏による最新カルチャー・コラム集。

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