大谷翔平が発したまさかのかけ声

「アツオー!」

そこには目の前で大谷に右腕を振りかざされ、リアクションに困る松田の姿があった。

「元祖の僕があっけに取られてね」

松田が少し悔しがり、そして感心する。

「事前に『やりましょう』なんて話は一切なく。大谷選手が日本でプレーしていた時に僕やっていた『熱男』を忘れずにいてくれてね、ああいう大事な場面で出してくれたっていう。今回はキャプテン制を設けなかったんですけど、『やっぱり一番チームを盛り上げて引っ張ってくれているんだな』って思いました」

まさか大谷は「アツオー!」をやるとは… 写真/共同通信社
まさか大谷は「アツオー!」をやるとは… 写真/共同通信社
すべての画像を見る

チームに刺激をもたらし、士気を高めさせる大谷の真の姿は、試合でのパフォーマンス以上に裏側にあったと、目撃者の松田は唸る。

「大谷選手が合流してから、ロッカーで座っている姿をほとんど見ませんでした」

練習でのフリーバッティングで規格外の打球を飛ばして人々の度肝を抜き、外野へと移動すれば遠投やキャッチボールで肩を鳴らす。

グラウンドで姿が見えなくなったかと思えば、室内練習場でボールを打ち込み、あるいはウエートルームでコンディショニングを整える。常に体を動かし続けている大谷に、松田はただただ嘆息を漏らすしかなかった。

「一喜一憂していないんだなって思いましたね。大谷選手にとって、真剣勝負のこの大会からすでに2026年シーズンが始まっているんです。WBCが終わればメジャーリーグが開幕するし、今年はピッチャーも再開させるじゃないですか。そのための準備をこの時点ですでに始めているんです。本当に野球少年だなって思いましたし、やっぱり世界でもナンバーワン、唯一無二の二刀流だなって」

松田が現役当時の代表チームと今との大きな違いに、選手たちの意識向上を挙げていた。彼らは練習が休日であってもグラウンドやトレーニングルームを訪れ、汗を流したという。
それも大谷をはじめとする先人たちが示してくれた道なのだと、松田が頭を下げる。

「大谷選手だけじゃなくてね、吉田正尚選手や鈴木誠也選手がメジャーリーグで結果を出してくれているからこそ、彼らの取り組みというのがいい導きになっているんですよね」

連覇を掲げた今大会、日本はベスト8でベネズエラに敗れた。「夢の時間は敗戦とともにあっという間に終わりました」と松田は唇を噛むが、だからこそ熱は帯びたままだ。

また、日の丸を背負いたい――プレーヤーだったあの頃と同じようにそう思えた。

「現役時代からジャパンですごくいい経験をさせてもらっているんでね。またやってみたいっていうのはありますね。だから頑張りますよ。うん、マジ頑張ろう」

松田宣浩。現役でなくとも、年齢が40代となってもなお、日の丸が似合う男を志す。

取材・文/田口元義