井端監督が「1番・大谷」にこだわった理由
「僕らコーチや選手同士でチームの距離感を縮めて、まとめてくれるっていう信頼もしてくれていたんでしょうね。そこに監督の自分まで入ったらメリハリがつかなくなるっていう。そのあたりのバランス感覚はとても上手だったのかなって思いますね」
井端の暗黙の方針は、松田が望んでいたことでもあった。短期決戦の国際大会。集結する選手は日本の俊秀たちである。自己管理からパフォーマンスに至るまで一家言ある彼らに、コーチだからといってことさら技術を指導するよりも、いかに「いつも通り」を貫けてもらえるか? 松田はそこを重んじた。
そういったことから松田は、選手たちに現役時代の自分の愛称である「マッチさん」と呼ばせるようフランクに接したのである。
「僕はコーチで最年少だったんで、選手との距離も近かったっていうのもあったしね。自分も経験があるんでわかるんですけど、代表って短期的なチームなんですぐにチームがまとまる必要があるんで、できるだけ選手の緊張感を解いてあげたかったし」
松田がチームに促していたのは呼称だけではなかった。「結束」のストーリーをひそかに立てていたのだと明かす。
そのひとつに、選手同士での声掛けがある。
宮崎合宿では中村悠平、坂本誠志郎、若月健矢と、ベテランから中堅という立ち位置のキャッチャー陣に先導役を託す。大会初戦の台湾戦は、ムードメーカーの牧秀悟に先陣を切ってもらう。
次からは牧とともに前回大会の優勝を知り、今シーズンからメジャーリーグでプレーする村上宗隆、岡本和真と繋ぎ、井端が監督となった24年のプレミア12から重宝される森下翔太へ。
そして、一発勝負のアメリカラウンドでは経験豊富なメジャーリーガーである吉田正尚、鈴木誠也、大谷に任せ、日の丸のボルテージを最高潮にもっていき世界の頂に到達する――選手をフィールドへと送り出すシナリオは万全だった。
鮮明となっていく日本代表のビジョン。そこに強烈な色づけをしたのが大谷翔平だ。
井端の確固たる起用のひとつに「1番・大谷」があった。メジャーリーグで2年連続50発越えのアーチストが、前回優勝の原動力となったピッチャーとの二刀流を封印し、今大会はバッターに専念する。
そこで「プレーボール直後、相手にインパクトと脅威を与えられ、チームに勢いをもたらす。なにより打順が最も多く回る」と監督が狙いを伝え、松田らスタッフも異論はなかった。
台湾とのオープニングゲーム。1回表の初球、大谷はライト戦へ強烈なツーベースヒットを披露し、チームの思惑を体現する。圧巻だったのが2回だ。1アウト満塁の絶好機でライトスタンドへ叩き込むグラウンドスラムで、今大会初得点を豪快に演出した。
主役がゆっくりとホームに生還する。一塁ベンチ前で手を差し伸べる監督や選手たちとリズムよくハイタッチを交わしていくかと思いきや、大谷が立ち止まった。













