めでたしめでたし、じゃねえ
自分たちの面倒をどこまでどうやって見るのか、と五十嵐特任准教授が指摘するとおり、〈見直し〉案凍結後に再開した議論は「医療保険制度改革全体の中で」高額療養費制度のありかたを考えるという方向へ向かった。その結果、高齢者の窓口負担割合を一定程度、現役世代と同水準にするアイディアや、OTC類似薬の保険適用見直しなどが俎上に載せられていった。
これらのさまざまな見直しには、それぞれどんな長所・短所があり、日々の生活と将来の社会にどんな影響をもたらすのか。それを我々自身が理解していなければ、五十嵐特任准教授が指摘するように、「いきなり一番大事なところを削りにかかってくる」事態がふたたび発生しないとも限らない。
そして実際にそれは、2025年12月16日に高額療養費制度の在り方に関する専門委員会の名義で厚労省が発表した「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方」*2の2ページ目に記された次のふたつの文章にもはっきりとあらわれている。
「高額療養費制度を将来にわたって堅持していくためには、制度の不断の改革に取り組んでいかなければならない」「近年の医療費の伸び等に一定程度対応した形での自己負担限度額の見直しを行っていく」
これらの文言からわかるのは、政府と厚労省は自己負担上限額を今後も引き上げていくという明確な意志を持っている、ということだ。自己負担上限額の引き上げは、ここまで見てきたことからも明らかなとおり、制度利用者の破滅的医療支出や経済毒性を悪化させ、中長期的には政府関係者などが自賛する「世界に冠たる」国民皆保険制度をむしろ毀損する方向へ作用すると思われるが、そのリスクを彼らははたしてどこまで自覚しているのか。
では、その高額療養費制度が日本社会にとって真のセーフティネットとして今後も機能し続けるためには、どのようなところを見直してゆくことが望ましいのか。
五十嵐特任准教授は、現行制度の数々の課題も解決する方向での修正が望ましいだろう、と話す。
「年間所得に応じて一カ月の支払い上限額を設定する現状の方法だと、やはりアンバランスさは拭いきれません。実現可能性はともかくとしても、たとえば欧州諸国のように一年間で所得全体の何パーセントまでを支払い上限にする、などの方法がスマートなように思います。
もちろん完璧な解決策にはならないでしょうが、少なくとも月あたりの自己負担上限額に到達するために薬をたくさん処方したり、ギリギリで自己負担上限の対象にならない事案が発生したり、といった制度内の矛盾はある程度軽減されると思います。
凍結後の議論を経て、多数回該当はひとまず現状維持になり、十分ではないとはいえ年間上限額の適用が開始されることにもなりました。その意味で、一定程度の評価をできるとは思いますが、『今の制度だって問題はあるんだぜ』ということは、やはり言っておきたいですよね。
『現状維持のままじゃあ、めでたしめでたし、じゃねえぞ。むしろ、全然めでたくねえんだからな』ということですよ」
文/西村章
註
*1 WHO, “Universal health coverage”.
https://www.who.int/health-topics/universal-health-coverage#tab=tab_1
*2「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方」高額療養費制度の在り方に関する専門委員会、二〇二五年一二月一六日。
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001613051.pdf













