「猫は九回生まれ変わる」ということから生死を題材にしようと思いました『猫君 りんねの輪』畠中 恵 インタビュー_1
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猫宿の長が殺された!

──前作は猫として二十年生きて猫又になったみかんが猫宿に入るまでと、同級生の猫又たちとの出会い、そこで起きる事件が描かれました。今回の続編『猫君 りんねの輪』では、冒頭で猫宿の長が殺されるというショッキングな事件が起こります。

「猫は九生を持つ」という言葉があるので、猫は九回生まれ変わる。猫に関するお話を書くなら生死に関するお話にしようというところから考え始めました。

──生まれ変わるということで『猫君 りんねの輪』。作中で「輪廻の輪に乗る」と表現されているのが新鮮でした。

 ぐるぐるぐるっと回っているから。

──その輪にひゅんと乗る。

 にゃんこなので(笑)。でも、九生とは言いますけど、生まれ変わるということは次に猫になるかどうかは分かりませんよね。生まれ変わるってどういうことなんだろうと思いながら書きました。

──猫宿の長は猫宿のトップで、前世は猫君だったんじゃないかという噂もあるくらいですから、あっという間に猫に転生してきます。しかも仔猫ながらに長の風格もあって。

『猫君』でも書きましたけど、長は天下の織田信長の生まれ変わりだったこともありますから(笑)。信長様だった猫又が普通の猫に生まれ変わるのでは悪いかなと。信長というキャラクターは好きなので、これはもう思い切ってその性格を反映するしかないと思いました。

──一方、みかんたちは二年生になりました。事件があったことで、ほかの学年の生徒たちは生まれ故郷の陣に呼び戻されてしまいます。しかしみかんたちの学年だけが猫宿のある江戸城に残り、長の生まれ変わりの仔猫を探すため江戸城内を動き回ることになります。猫宿が江戸城にあるという設定もますます重要になっていますね。

 普段から元江戸城の中をウォーキングしているんですけど、『猫君』の続きを書くにあたって、みかんたちが寝泊まりしている江戸城内の富士見多聞(たもん)をあらためて見に行きました。富士見多聞は石垣の上にある長屋です。みかんたちが猫宿に入る出入り口になる絵はないですけどね。

──もともと皇居が畠中さんの散歩コースだったというところから『猫君』を考えられたと聞いています。

 そうなんです。みかんたちはここからこう歩いて富士見多聞に行くんだとか、歩きながら考えました。この坂を転げ落ちたんだなとか。

「猫は九回生まれ変わる」ということから生死を題材にしようと思いました『猫君 りんねの輪』畠中 恵 インタビュー_2
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言うことを聞かない首玉(くびたま)たち

──さらに今回、江戸城に謎の僧侶が現れます。

 天海(てんかい)さん。江戸の町をつくるにあたって徳川家康に協力し、百歳を超えるまで生きていたと伝えられる天海僧正(そうじょう)です。どうしてそんなに長生きができたんでしょうね。どういう出自の、どういう人物だったのか、いまだに謎が多い人物です。鎌倉時代からの名門、三浦氏の出身だと言われていますけど、そのへんもはっきりしない。天海僧正って戦国時代から生きているんですよね。

──武田信玄のもとに身を寄せたという説もあるとか。

 信長が生きている時にも生きてたんですよね。家康が亡くなって少し後に亡くなったという。

──天海と信長は生年も近いようです。ということは、『猫君』は徳川家斉(いえなり)の時代ですから、史実的には天海が死んでから約百五十年くらい経っていることになりますけど、なぜ天海を登場させようと思われたんですか。

 猫が九回生まれ変わるということから生死を題材にしようと思ったので、戦国時代から江戸時代にかけて長く生きていた天海さんはぴったりな登場人物ではないだろうかと。本当に人だったのかなあ、という気もしますし。

──妖かもしれないですね。長いということでいえば、そもそも『猫君』を家斉の時代にしたのも、家斉が徳川幕府の将軍の中でもっとも長く将軍職にあったからとか。

 お子さんも多いですし、いろいろ面白いエピソードを織り込めそうだなと。長い間在職していたわりには大きな事件が少なくて、比較的安定して穏やかだった時代だということもあります。そういう時代のほうが猫又たちの話に集中しやすいんじゃないかと思いました。

──前回は将軍から新米猫又たちに首玉(猫又たちが首から下げている不思議な力を持つ玉)を探させるゲームを仕掛けるなど、能動的に猫又に関わっていましたけど、今回は猫又たちを見守るポジションでしたね。

 そうですね。今回の主役は首玉かなと。将軍のほうに意識を向けられてしまうと、首玉の話がメインにならないので。ただ、みかんたちの首玉はもともと将軍が与えたものなので、関わりは深いんですけどね。今回は、『猫君』ではまだそんなに存在感を発揮していなかった首玉が、だんだん姿を変えて、猫又たちの相棒になってきて、書けば書くほど妙なことになっていきました。

──首玉が全然言うこと聞いてくれない。みかんたち二年生がさんざん振り回されます。

 一つくらい猫又の命令に従順な首玉があってもいいと思いますけど、一つだけ言うこと聞くというのは嫌なんでしょうね。結局、みんなで反発して好き勝手に変化して場を引っかき回すことになりました。

──首玉という存在そのものはどこから出てきたんですか。

 猫の鈴ですね。

──時代劇でも鈴をつけた猫が出てきますね、そういえば。それが鈴じゃなくて、いろんな種類の玉で、さらにそれが何かに変化する。

 そうですね。にゃんこの姿では、武士のように刀を差すわけにいかないので、何か身につけさせることができるとしたら、鈴だけかなと思って。だったら、鈴のように首回りにつけているものを自分の相棒にするしかないなというところから考えました。

──ところが、みかんたちの首玉はぜんぜん言うこと聞いてくれない。高価な首玉が、それぞれ謎なものに化けて、勝手な動き方をします。それぞれの首玉はどんなふうに考えられたんですか。

 最初に考えたのは白花(しろか)の首玉。珊瑚の真っ赤な首玉なんですけど、『猫君』の時はまだどういう力を持った首玉か考えてなかったんです。で、真っ赤な色から赤猫を連想しました。赤猫といえば江戸時代では放火犯のことなんです。ああ、火事か、だったら火を噴くようにしよう、と決めました。

──火を噴くから屋内でなかなか使えない。江戸城が燃えてしまう(笑)。鞠姫(まりひめ)の首玉の大きな錫杖(しゃくじょう)が小さくなるというのは?

 あれは私の小さい頃に観た『西遊記』の如意棒ですね。あれも大きくなったり、小さくなったりするイメージがあって、そこからです。

──ぽん太の首玉はもともとは小さな木彫りの(すずめ)だったのですが、いつの間にか(はやぶさ)になって、空を飛びながら情報収集をするようになりましたね。

 あれは進化させようと思ったんです。雀と隼って親戚なんですよ。

──えっ、そうなんですか。

 そうなんです。DNA解析が進んで、隼は(たか)よりも雀に近いことがわかったそうです。ちなみに鸚鵡(おうむ)も隼の親戚なんですよ。だから、隼の鼻のところには鸚鵡と同じように穴がちゃんとあいています。

──真久(まひさ)の首玉が変身するのが鸚鵡ですね。静若(しずわか)の首玉が浮き粉になるというのもユニークです。

 私、浮き粉を知らなかったんです。天ぷらに使うんだと知って「あれがそうだったんだ」と。その時、浮き粉なら浮くしかないなと思って、そこでまたすすすすっと筆が進みました。攻撃的な首玉じゃない。浮くだけ(笑)。