これから上がる圧力が積み上がっているだけ
イランだけではない。UAEをはじめとした中東の主要産油国からのタンカーが、米国、イスラエルによるイラン攻撃以降、ほとんど動けていないという点だ。ここで重要なのは、単に止まっているという事実ではない。1カ月半もの間、止まり続けているという時間である。
原油は蛇口ではない。止めればすぐ止まり、開ければすぐ流れるものではない。タンカーが動かないということは、供給のタイミングがずれ、在庫の偏在が生まれ、物流が歪み、その結果として価格が遅れて跳ねるという構造を意味する。
まだ上がっていないのではない。これから上がる圧力が積み上がっているだけだ。1カ月半止まった原油は、1カ月半遅れて生活に届く。この時間差の残酷さを直視しなければならない。
そして、ここにトランプ関税が重なる。
ここは逃げずに言い切る必要がある。トランプ関税は、表向きには相手国を叩くための武器として語られる。しかし実態は違う。負担の大半は米国企業のコストとして跳ね返り、そのコストはやがて価格転嫁を通じて国民生活に返ってくる。
つまり、トランプ関税は相手を斬る刃ではない。最初から自国企業を斬り、その先で国民の生活を斬りつける刃である。
いまの市場は「事実」より「言葉」に反応
本来は伝家の宝刀であったはずの関税も、使いすぎれば性質を変える。武器は振るい続ければ諸刃の剣となり、その刃は外ではなく内側へ向く。沈黙の中で、静かに生活を斬る。
しかもそれは一撃ではない。電気代、ガソリン代、食費、物流費、保険料といったかたちで、毎日の暮らしに細く長く入り込んでくる。
それにもかかわらず株価は上昇を続ける。ここに多くの人が抱く違和感の正体がある。だが、この現象を陰謀論で片づけてはならない。本質はもっと無機質だ。
いまの市場は「事実」より「言葉」に反応し、「現実」より「期待の変化率」に値段をつけている。トランプ大統領の発言ひとつで相場が動くのも、誰かが裏で糸を引いているからではない。ボラティリティそのものが商品化されているからである。
ヘッジファンドや投資銀行は、振れ幅そのもので稼ぐ。上がるか下がるかではなく、大きく動くこと自体が収益機会になる。つまり、この揺れそのものが一部のプレイヤーに極めて有利な市場構造になっているということだ。













