なぜ、拙著を無料公開することに決めたか
同様に我那覇もドーピングコントロール委員会がプレゼンスを示したいがために、にんにく注射の報道(それも事実ではない)に反応したのではないか。
誤った裁定が覆らない中、我那覇は「これが前例になれば、以降、選手が正当な治療を受けられなくなる可能性がある」との浦和レッズの仁賀定雄ドクターの言葉に奮い立ち、私財の3000万円を投じてスイスのCAS(スポーツ仲裁裁判所)に申立てを行った。CASは当然の如く、我那覇の行為はドーピングではないとの裁定を下した。
我那覇の無実は証明されたが、Jリーグはそれでも節を曲げなかった。正式な謝罪をせず、さらには川崎からの制裁金を返金せず、それを原資として「ドーピングの啓蒙活動に当てる」と表明したのである。
CASは「本件上訴を認め、我那覇選手に関する本件処分は取り消され、申立て人が求める救済をここに認める」との裁定文を明確に出しているが、鬼武チェアマン(当時)は、誤訳も交えて、「ドーピング違反か否かの裁定はなされなかった」とコメントしている。
もしも微塵でもドーピング疑惑があるなら、CASが制裁を取り消すはずがない。詭弁に過ぎないが、かようなコメントが新聞報道されれば、一般的なサッカーファンはあたかも我那覇がグレーであったかの印象を受ける。
事実、いまだに「我那覇はにんにく注射を打った」「意図的では無くてもドーピングに問われていた」というまったくの誤った認識でいる人に出逢うのだ。酷いときはクラブスタッフまで真実を知らなかった。
私は我那覇が移籍をするたびにその潔白と冤罪事件の経緯を記事にしてきたが、ここに至り、集英社のHP上で拙著を無料公開することに決めた。
印税無用。何が真実であったのか、誰が本当にJリーグを救ったのか。我那覇の勇気の源は何であったのか。調査報道をかけて細に入り書き込んだ15年前の本であるが、ぜひお読み頂きたい。(集英社公式サイトhttps://books.shueisha.co.jp/cbs/c2082/c290-26384/にて26年5月6日まで無料公開中)
そして今、あらためて言う。我那覇の現役中にJリーグは正式な謝罪を成し遂げてもらいたい。シーズン中に6試合の出場停止という処分を受けて、我那覇は欧州移籍どころか、レギュラーの座を失い、代表選出からも外れた。後進の選手のために立ち上がった裁判という心労はサッカー選手としての彼の心身を痛ましいほどに蝕み、そのキャリアを著しく貶めた。
けれど、我那覇は、それは自分の力不足だったとして誰かを責めるような言辞は発しない。その誠実さ、ストイックな姿勢にJリーグは応えるべきではないのか。
私は2014年に大阪弁護士会の主催で開かれたシンポジウム(人種差別にレッドカード)に出席した際、村井満前チェアマンに直訴をしたが、彼は、その後に何の行動も起こされなかった。
この任に就く者が第一義に優先すべきは、カネ儲けや先輩への忖度ではなく、選手の人権と身体そして名誉を守ることであろう。現在の野々村芳和チェアマンには、愚かなメンツや詭弁をすべて捨てて我那覇への謝罪と感謝を述べて頂き、勇気を持ってJリーグの歴史に自身の名前を残して頂きたい。
そして我那覇の引退試合がフロンターレのホーム、川崎でいつか行われることを強く願う。
文/木村元彦













