「貯蓄から投資へ」で、本当に豊かになるのか
資産を持つ人は豊かになり、持たない人はますます貧しくなる。こうした状況を背景に、政府は「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、NISAを推進してきました。2024年からは新NISAがスタートし、非課税枠が大幅に拡大されました。
金融庁が25年4月に発表したデータによると、24年12月末時点でNISA口座数は2560万口座となり、前年から435万口座も増加しました。累計の買付額は52.7兆円に達し、23年12月末の35.3兆円から約1.5倍に増えています。
確かに、多くの人が投資を始めたことがわかります。しかし、この「貯蓄から投資へ」という政策は、国民全体を本当に豊かにするのでしょうか。いくつかの重要な問題があります。
第一に、投資には必ずリスクが伴う点があります。株価が上がれば利益が出ますが、下がれば損失を被ります。過去には急落した時期もありました。特に、投資経験の少ない人々が、株価が高騰している時期に参入すると、その後の下落局面で大きな損失を出すリスクがあります。
第二に、そもそも投資に回せる余裕資金がない人々が多数いる点です。前述のように、24年調査で貯蓄ゼロ世帯が単身で32.8%、2人以上世帯で24.0%もいるなかで、「貯蓄から投資へ」と言われても、貯蓄すらない人々には無縁の話です。生活費を切り詰めながら暮らしている人々に、「投資をしなさい」というのは現実的なアドバイスとは言えません。
第三に、投資で得られる利益にも格差がある点です。NISA口座の利用者は増えていますが、その多くは少額の積立投資です。月々数千円の積立では、資産は徐々に増えるかもしれませんが、既に億単位の資産を持つ富裕層との格差を埋めることはできません。
むしろ、投資ブームで株価がさらに上昇すれば、既に大量の株式を保有している富裕層がさらに利益を得て、格差はむしろ広がる可能性があります。
第四に、投資に資金が向かうことで実体経済への影響が懸念される点があります。個人のお金が株式市場に流れれば、消費が減る可能性があります。また、企業も株主の利益を優先して配当を増やす一方で、賃上げや設備投資を抑制する傾向が強まるかもしれません。
さらに、ここで直視すべき重要な事実があります。
新NISAにおいて、「オルカン(全世界株)」や「S&P500(米国株)」などの海外資産が選好されている点です。
これは個人の資産形成としては、成長性の高い市場に資金を振り向ける極めて合理的な投資行動です。しかし、マクロ経済視点では家計の資金が海外へ流出(円売り)し、国内企業への還流が細るというジレンマを生んでいます。
これを単なる「資本逃避」と批判するのは容易ですが、本質は「なぜ、自国の企業ではなく、海外企業に将来性を感じているのか」という点にあります。これは投資家の責任ではなく、魅力的な投資対象(高い成長率や株主還元)を提供できていない日本経済全体の構造的な課題です。













