今井らいぱちが演じたピン芸の極致

そうやって決定的な答えを遅延させたまま進む漫談が、観客の心を惹きつけ笑いに巻き込んでいく。身綺麗なスーツの意味も「紳士」から「変態紳士」に反転する。よく見ればネクタイとポケットチーフの柄は禍々しい。身なりで密かに予告されていた変態性が、徐々に浮き彫りになる。

2人以上で行なう漫才やコントなら、関係性がキャラクターを説明してくれる。1人が奇妙な格好や言動を見せても、もう1人がそれに的確なツッコミを入れることで「危険な人」ではなく「変だけどおもしろい人」に変換し、観客に笑いとともに受け入れさせることができる。ピン芸には、それがない。

今回優勝した今井らいぱち(本人SNSより)
今回優勝した今井らいぱち(本人SNSより)

今回の渡辺のネタは、そんなピン芸の壁を漫談で切り抜けるひとつの形だったように見える。ピン芸は、自分だけで自分を説明しながら笑いを生まなければならない。しかも説明っぽくならずに。

ピン芸とは、説明を嫌いながら説明を求められるという笑いの矛盾を、身体ひとつで引き受ける芸だ。渡辺はこのパズルを、漫才との連続性、結論を留保したまま進む構成、細部まで配慮された服装という仕掛けで見事に解いてみせ、ファーストステージを勝ち上がった。

優勝した今井らいぱちのネタも、観客の大きな笑いを生んだ。ステージ上には大きなモニターが置かれ、「桜ヶ丘高校 特別授業 財前一樹 講演会」と映し出されている。万人がどこかで接したことのある光景だ。

そこに登場したのは、ロン毛をぴっちりと撫でつけたような髪型、胡散臭い眼鏡、カジュアルな淡いピンクのジャケットを腕まくりし、腕には数珠の男。コントのキャラクターが、容姿や動きですでに十分すぎるほど伝わる。

財前と名乗る男は、スライドを使ってプレゼンを進めていく。どうやら彼は「スペシャルドリームアドバイザー」という肩書の人物らしい。なるほど、そんな財前がプレゼンで使うのはパソコンではなくタブレットだろう。

プレゼン資料には不要なアニメーションも入れるだろう。彼がしゃべるたびに、動くたびに、胡散臭さが積み上がっていく。